「自画像の証言」展を見て、面白かった

 東京芸術大学の大学美術館では金刀比羅宮展をやっている。見ようと思って行ったら入口に行列ができていた。予定変更して帰ろうと思ったら、同館の陳列館で「自画像の証言」展をやっている。芸大創立120周年企画とかで、卒業時に描き残して行くのが義務の芸大生たちの自画像を並べている。無料。
 これが本当に面白かった。100年で4,800点残っている。その内165点が並べられている。私が名前を知っている画家は少ないが、それでもあの画家が若いときにこのような自画像を描いていたのかと興味は尽きない。
 山口長男が下手。これでは同級生の小磯良平荻須高徳と一緒にスケッチ旅行に行っても描かなかったのは無理もない。小出楢重はひょうひょうとしている。岡鹿之助が暗い。失恋してそのまま彼女を思って独身を通した人だ。絵画の世界では成功したのに。岸田衿子はきれいな人だ。お嬢様で性格も良さそうだ。吉武研司の自画像がおかしい。表現主義だろう。赤塚祐二がちゃんとした具象画を描いている。千住博はハンサムで屈折がない。村上隆がおかしい。顔を描かない者も何人もいる。中村政人は落書きみたいだし。太湯雅晴は指紋を自画像にしている。いま銀座芸術研究所で個展をしているが、1万円札ならぬ無限円札を印刷して展示している。販売もしていて100枚の札束が8万円だ。松井冬子は幽霊や死体を描いていて人気がある画家で、美人と評判だがたしかに自画像も美人だ。
 これに関連して最近NHKテレビのETV特集でこの「自画像の証言」が放送された。それをビデオに録画していたので帰宅して見てみる。画家にまつわるエピソードも紹介されていて引き込まれて見たのだった。
 戦後女性の入学も許されて入ったという青木美知枝が紹介された。現在79歳、恥ずかしい絵を残したくないと過去の作品を目の前で切り裂いている。私は全く知らない画家だったが、テレビに映された白い椿の小品は絶品だった。すばらしい絵だ。普段具象に興味がなく、特に花の絵を見てほとんど良いと思ったことがなかったのに、この絵には惹かれた。実物が見てみたいと強く思った。
 展覧会は9月17日まで。月曜休み、祝日は開館。

 これに関する本も最近発行されたようだ。「芸大生の自画像」(NHK出版)