オーディオ比べ、あるいは辛い恋も5年経てば忘れられる

 オーディオ趣味は難しいものがある。わが家へ友人二人が別々の日に遊びに来た。二人ともいいオーディオセットを持っている。一人はスタジオでモニターに使うでかいダイヤトーンのスピーカー、もう一人はJBLのこれまたでかいスピーカーだ。ダイヤトーンはクラシック派、JBLはもちろんジャズ派だ。二人が私のオーディオセットの音を聴いて異口同音に、硬い音だなあ! と言った。一人は、お前はいつもこんな硬い音を聴いているのかなどとまで言った。でも、彼は最近はもう聴かなくなったので自分のダイヤトーンのスピーカーをあげようかと言ってくれたが、あまりに大きいことを知ってカミさんが断った。とてもとても残念だった。
 さらに別の日に別の友人を今度はこちらが訪ねた。最近JBLのスピーカーを買ったのだと言って聴かせてくれた。これは小さなモデルだった。音が硬かったがそのことは言わないでおいた。どんなオーディオセットも聴き慣れた自分の音と比べてしまい、良いとか悪いとか簡単に分かってしまう。だからお互いに聴き比べない方がいいと思う。
 ある時外苑前の取引先に行ったらそこの社長の趣味がオーディオだった。事務所にオーディオセットが置いてあってそれを聴かせてくれた。アンプ、スピーカー、レコードプレーヤーとすべてが自作、電源は単Iの乾電池が数十個、もちろんCDでなくLPレコードだ。モーツアルト室内楽を聴かせてくれたが、これがものすごく柔らかい音なのだ。ボリュームを上げていっても不快な音にならない。柔らかい気持のいい音が変わらない。これでかかった費用がたった10万円だという!
 ショックだった。どんなにショックだったかと言えばそれから2年近く自宅のオーディオの電源を入れなかった。一切聴かなかった。やっと2年経って忘れることができたから今はまた聴いているけど。
 昔作った諺「どんな辛い恋も5年経てば忘れられる」に比べれば、2年で忘れられるのだから、まあオーディオの傷は浅いのだ。