ギャラリー椿の夏目麻麦展、日本の絵画バブルについて再び

 東京京橋のギャラリー椿で開催されている夏目麻麦展を見た(7月18日〜31日まで)。とても良かった。始まって2日目なのにもうほとんどが売れていた。おそらく完売するだろう。彼女の初個展は1998年の銀座のギャラリーQだった。最初から良かった。西瓜糖とポルト・ド・パリの個展は見なかった。次の藍画廊の個展が2004年でこれも良かった。それで今回だった。一緒に見ていたコレクターがマルレーネ・デュマスよりいいと言った。絵自体はデュマスよりいいかも知れない。
 さてデュマスにあって夏目にないものは何か。メッセージ、思想ではないか。デュマスは人種とかジェンダーとか強いメッセージを持っている。では絵画にメッセージは必要か。必要ではないと思う。抽象表現主義絵画にメッセージはなかった。一方、アンゼルム・キーファーの絵画とメッセージ、思想とは切り離せない。こうしてみると、メッセージ、思想性の有無は直接には絵の価値とは関係ないと言える。とは言いながらキーファーのすばらしさは思想と絵画が渾然一体となった点だ。これとプロパガンダ絵画とは違っている。プロパガンダ絵画は絵画がメッセージの乗り物、道具になっているのだ。


 夏目麻麦がほとんど完売の勢いだと書いた。最近、日野之彦も加藤泉も個展初日で完売した。そのことと関連して、このギャラリー椿のホームページに掲載されている「ギャラリー椿の日記」の7月18日に日本の絵画バブルへの恐れが書かれていた。
http://www.gallery-tsubaki.jp/diary/diary001.html
 ギャラリー椿の7月18日の日記から

お客様から週刊東洋経済誌にアートの記事が掲載されているという事で見せていただいた。5月に行われたクリスティーズの戦後美術・コンテンポラリーアートオークションで600億円の売上を記録した事で世界的な絵画ブームが日本にも押し寄せ、絵画価格が急騰との記事である。バーゼルのアートフェアーでの売上も空前の賑わいを見せていて、海外では「アートを投資対象に組み込むべきだ」とアドバイスする投資雑誌もあるという。
こうした事からその波が日本にも押し寄せ、世界のマネーが日本の現代アートに狙いを定めているようだといった内容の記事である。確かに海外でのオークションやアートフェアーの盛況は目を見張るものがあり、日本だけが蚊帳の外といった観があったが、最近は私自身もそうした流れを肌で感じるようになってきた。
昨日もロンドンの画廊と台北の画廊がそれぞれの国のフェアーに山本麻友香を出したいとの事で来廊した。特に去年、大盛況であったロンドンのフェアーが今年10周年を迎え、そうした中で日本人作家を紹介する機会を是非持ちたいということで彼女に白羽の矢が立ったようだ。大変熱心な誘いでもあり、また彼女がロンドンに留学した縁もあって、ニューヨークのフェアーと重なるがなんとか出品する方向で了解を得た。台北のほうは来年の事なので少し返事を待ってもらう事にしたが、わざわざ訪ねて来ての依頼には驚かされる。
こうした海外の熱い動きは雑誌にも書かれているような背景があるのかもしれないが、私は海外で日本作家が活躍できる場を作る事は積極的にやっていきたいが、投資対象の市場とは何度も言うようだが一線を画していきたい。
(中略)
美術市場が活況を呈するのはいいことだが、バブルの二の舞はご免である。

 しかし、やはり日本でも絵画バブルは来るだろう。上に引用されている「週刊東洋経済」7月21日号の記事では、

 欧米を初めとする海外では、オークションやアートフェア(美術品の見本市)での美術品取引が、空前のにぎわいを見せている。
 昨年の12月にスイスのバーゼルで開かれたアートフェアには、作品を買い付けようと世界各国の富豪が集まった。(中略)
 かつてないアートブーム。買い手は個人の富裕層。ギャラリー、美術館や財団の関係者らだ。(中略)
 この波が、ここ日本にも訪れようとしている。手始めに"世界のマネー"が狙いを定めたのは、日本国内で取引される現代アートだ。
(中略)
 シンワアートオークションの倉田陽一郎社長は、「日本で現代アート市場が大きく動くブレークポイントが近づいている」と話す。

(ギャラリー椿の日記は、アートソムリエの山本勝彦さんのメーリングリストで教えていただいた)。