詩2題、川崎洋と谷川俊太郎

   鉛の塀
              川崎 洋

言葉は
言葉にうまれてこなければよかった

言葉で思っている
そそり立つ鉛の塀に生まれたかった
と思っている
そして
そのあとで
言葉でない溜息を一つする

   ほん
             谷川俊太郎

ほんはほんとうは
しろいかみのままでいたかった
もっとほんとのこというと
みどりのはのしげるきのままでいたかった
だがもうほんにされてしまったのだから
むかしのことはわすれようとおもって
ほんはじぶんをよんでみた
「ほんとうはしろいかみのままでいたかった」
とくろいかつじでかいてある
わるくないとほんはおもった
ぼくのきもちをみんながよんでくれる
ほんはほんでいることが
ほんのすこしうれしくなった

「ほん」は丸谷才一「袖のボタン」(朝日新聞社)で知った。