突然なぜ思い出したのか

 道を歩いていて急に手紙を持ち歩いているのを思い出した。何かポストのイメージが浮かんだ。この辺りにポストがあるような気がして探すと歩いてきたビルの陰にあるのを見つけた。手紙を投函して考えた。なぜ今急に手紙のことを思い出したのか。
 以前からこの辺りを歩くことがあったので、ポストがあることを覚えていたのかもしれない。それで手紙のことを思い出したとも考えられる。
 あるいは、歩いてきたとき意識しない背景の風景の中にポストがあることを、意識の潜在的過程が気付いて手紙のイメージを呼び出したのかもしれない。
 おそらく後者なのではないか。日常の風景を、意識は見ていながらその上を滑っていく。背景にいちいち丁寧に付き合っていたら普通に歩くこともできないだろう。ところが、何か違和感があるものに気付いた時、立ち止まり注目する。人が倒れている! とか、鞄が落ちているとか。そして、滑っていく眼と注目する眼の中間の状態が、潜在的意識が気付いたというケースなのだ。意識的には気付いていないが、ちゃんと拾って「手紙」のことを思い出させている。