絵の値段の不思議

 あんたは絵に詳しいだろう。知り合いが家を建てたので富士の絵を贈りたいんだ。6万円くらいで見つけてくれ、取引先の部長から頼まれた。
 懇意にしている画商さんを訪ねる。条件を話すと、デパートへ行くと画廊の隣に工芸品売り場があるでしょう、その値段は工芸品売り場の品物です。そんなことを言われながらもこちらを恥じ入らせないのは、その画商さんの人柄だ。でも、あなたの頼みだ何とかしましょう。
 1週間しない内に手に入ったからと電話がある。6号の立派な富士の油彩画だ。私はこれを仲間の画商から5万円で手に入れました。私の手数料5千円を乗せて5万5千円くださいと言われる。さらに美術年鑑のあるページのコピーも渡される。それによるとこの画家は1号あたり8万円で、目の前にあるこの絵は48万円ということになる。デパートでは40万円くらいで売っていますよ。ありがたく頂いた。
 でもなぜ数分の1の値段で手に入ったのか。ここからは推測だが、コンビニでは客が列を作って品物を買っていくのに対して、絵は画商1軒あたり月に何点かしか売れないのではないか。その少ない売上げで経営して行くには粗利は大きくないとやっていけない。画商仲間は低い取引価格で融通しあっているのだろう。つまり絵が不当な高値で流通しているのではない。これが絵の値段の仕組みなのだ。