立原正秋「雪のなか」を読む

 立原正秋「雪のなか」を読む。久しぶりに立原正秋を読んだが、やはりこの作家は苦手だ。だいたい男女のごちゃごちゃした不倫話が苦手なのだ。昔友人に立原を好きなやつがいて、彼から強く勧められて「薪能」などを読まされた。苦手とはいいながらウブな青年にとって奔放な人妻の姿は強い印象を残した。
雪のなか (講談社文庫)
 立原正秋の方向を延長した辺りにイギリスの女流作家アイリス・マードックがいるのではないか。
 アイリス・マードックは「イタリア女」を読んだだけだが、どろどろした男女関係に胸焼けがして1冊だけで敬遠してしまった。マードック好きなカミさんによると「イタリア女」は彼女の作品の中では割合軽い方だという。
 立原正秋では自伝の「冬のかたみに」や「日本の庭」が好きだった。どちらもノンフィクションだ。立原は日朝混血だと自称していたが、高井有一の書いた伝記「立原正秋」によれば両親とも朝鮮人だった。それを嫌ってか日本文化を深く研究し、和歌、日本庭園、骨董、剣道などに造詣が深かった。それにしてもこの高井有一の伝記はとても良かった。立原への友情と、書くべきことははっきり書く態度と。