小川麗:不幸は優れた作品を作るための必要条件か

 小川麗という若い日本画家がいる。4年前の2003年1月神田のアートギャラリー環で個展を見た。具象の画家だが強く訴える絵だった。小さな童女がパンツ1枚でしゃがみ込んで、見る者に視線を向けている。彼女の訴えるような表情がこの絵を見る者を捉えて離さない。別の大きな作品では動物のヤクか何かに童女がすがりついている。こんなに強く訴えてくる絵を久しぶりに見た。この時画家は22歳。初めての個展。
 不思議な絵だと思って画廊主と話すと、画家は数年前に続けて両親を亡くした。一時期学費を得るために休学して働き、いままた東京芸術大学に在学中。画家の親戚たちが見に来て泣いていたという。ああ、あの切なく訴えている童女は画家なのだ。立て続けに両親を亡くして彼女はどんなに心細かったか。その悲しさ寂しさがよく表されている。
 両親を亡くすという不幸が画家にこれらの優れた絵を描かせた。もし彼女が幸福な人生を歩んでいたら、ここまで人の心を打つ作品を作ることができただろうか。たいていの幸福な画家は凡庸な作品を作る。不幸は優れた作品を作るための必要条件なのか。草間弥生も不幸な人ではなかったか。吉仲太造も鬱に苦しんでいた。マーク・ロスコもゴーキーも石田徹也山本弘も自殺した。駒井哲郎はひどい酒乱だった。人は優れた作品と幸福な人生とどちらを選ぶのか。