植物図鑑の使い方

 娘が小学生だった時、植物図鑑の引き方を教えてほしいと言ってきた。で、教えた。知りたい植物を前にして、図鑑の最初のページから似ている植物が現れるまでページを繰っていくんだ。その時娘は驚いたのだったかあきれたのだったか、もう忘れたが。
 初心者にとってこれが最もオーソドックスな使い方だと今でも思う。
 そのことの不合理さから工夫をこらした図鑑が種々発行されている。季節で分ける考え方、「春の花」「夏の花」等。場所で分けるもの、「都会の植物」「草原の植物」「山の植物」等。花の色で見分ける図鑑というのもある。
 長田武正先生は講談社オレンジブックスで植物検索図鑑を提案された。ツリー型の検索図鑑でまず「つるがある、ない」から出発する。葉は鋸歯がある、ない。托葉がある、ない。腺体がある、ない。と、どんどん専門用語が出てくる。一つでもクリアできないとアウト。かなりの知識がないと使えない。
 この点、同じことをパソコンで行うマルチメディア植物図鑑はよくできている。答えられないことはそのままにして分かるものだけ回答すれば結論に到達する。しかし、実際は東海大学の星先生の検索図鑑のようにこれも正解率は低いようだ。データが少ないのかも知れない。
 一時期ある植物学者が「科の見分け方」という図鑑を企画したが実現できなかった。「科」が分かればそこからの検索は割合容易なのでこれは実用性があるが、その科を見分ける方法を確立できなかった。なぜできなかったのかは聞いてないが、もしかしたら植物の自然分類に問題があるということはないだろうか。自然分類といわれているものが、必ずしも客観的なものを反映していないということが。バラ科のように大きい科は多様性も大きく、簡単に共通性を括りにくいとか。
 最近でもユリ科の大きな再編が必要だと新聞で報じられたことだった。
 専門家の意見を聞いたら、植物図鑑はある程度の知識があって初めて使えるものなのだとのこと。ある意味これは当たり前だ。そこである程度の知識レベルに達しない素人はどうなるのか。冒頭に書いたように最初のページから見ていくしかないように思う。
 植物学者の森田弘彦先生に、最初はどうやって植物を覚えたのですかと伺うと、中学生の時に学生版牧野植物図鑑を全部暗記しました。植物を見るとあのページのあれだとすぐ思い出しましたと答えられた。
 
 さて、少し植物を覚えると新しい問題が生まれる。近似種の存在だ。都会にも多いコニシキソウを覚えたとしよう。ここにもコニシキソウがあったと思っても、それは近似種のニシキソウやオオニシキソウかも知れない。ハコベかと思ってもウシハコベやミドリハコベ、イヌコハコベかも知れない。ここ10年芝生に圧倒的に多いのはウラジロチチコグサで、これは新しい帰化植物なので古い植物図鑑には載っていない。近似種としてはハハコグサ(ホウコグサ)、チチコグサ、チチコグサモドキ、タチチチコグサ、セイタカハハコグサなどがある。