「国家の罠」のささいなエピソード

mmpolo2006-12-27




 佐藤優国家の罠ー外務省のラスプーチンと呼ばれて」(新潮社)を読む。これが本当に面白かった。鈴木宗男元大臣を起訴するために500日以上も小菅の拘置所に勾留され、起訴された外務官僚の戦いの記録。
 でも、ここでは本書中のささいなエピソードを三つ紹介する。

 信頼する外務省幹部「(略)新聞は婆さん(田中真紀子)の危うさについてきちんと書いているんだけど、日本人の実質識字率は5%だから、新聞は影響力を持たない。ワイドショーと週刊誌の中吊り広告で物事は動いていく。」(p.76)

 エリツィン氏の場合、酔いが回ると、サウナの中では白樺の枝で友だちの背中を叩いたり、また、男同士で口元にキスをしたりする。3回キスをするのがしきたりだが、3回目には舌を軽く相手の口の中に入れるのが親愛の情の示し方である。もう少しレベルの高い親愛の情の示し方もあるのだが、それは日本の文化とかなりかけ離れているのでここでは書かないでおこう。

 佐藤氏は小菅の独房で、浅間山荘の連合赤軍事件で死刑が確定した坂口弘と隣同士になる。坂口の動静を伝えるエピソードが印象的だった。

 私は外交官として20年を過ごしたので、ものの考え方は保守的だ。政治的に31房の隣人(坂口)とは考えを異にする。しかし、私にとって重要なのは、あの閉ざされた空間のなかで、真摯に自分と、そして歴史と向かい合う31房の隣人の姿なのだ。ひと言もことばを交わさなかったが、私は獄中でこの隣人から多くのことを学んだ。
 看守が「面会。お母さんだよ」と言うと、「おふくろ。すぐに行きます」と言って、独房から廊下を小走りに面会場の方へ向かって行くうれしそうな隣人の後姿を私は一生忘れることはないと思う。(p.369)

 昔朝日新聞の朝日歌壇に坂口はしばしば入選していた。彼の短歌を読むのが楽しみだったことを思い出した。死刑が確定すると新聞への投稿は禁じられて、朝日歌壇に登場することはもはやなかった。