植物の生活型

 植物学に「生活型」という考え方がある。植物を生態から分類する考え方だ。普通生物は自然分類で分類されている。発生が近縁な種をまとめて、キク科とかバラ科、イネ科などに分類している。生活型では生態的に似ているものを同じ仲間としてまとめている。たとえばタンポポとオオバコは葉が地面に張り付いているロゼット型の生態を示すので仲間とされる。タンポポはキク科であり、オオバコはオオバコ科なのに。
 これはなかなか面白い考え方だと思うが一般に知られていない。普及していないのだ。生活型を自分の研究に取り入れている植物学者は、林一六さん、根本正之さんなど数人にすぎない。
 生活型が植物学に何か新しいことをもたらしましたかと、はっきり批判する植物学者もいる。いや大勢ははそう考えているだろう。

 生活型は何人もの学者が提案したが、デンマークの植物学者ラウンケアが提唱したものが普及した。休眠芽の位置によって分類する休眠型だ。それを沼田真さんが改訂し、生育型と繁殖型を取り入れてきめ細かなものとした。
 沼田さんは千葉大学の学長や日本植物生態学会の会長、日本自然保護協会の会長も務め、実弟に千葉県知事もいた。著書もきわめて多い。その沼田の生活型がなぜ普及しなかったのか。
 沼田さんは岩波新書を3冊書いている。「植物たちの生」を除いてつまらない。ほとんど箇条書きみたいな書き方だ。どう書いたら読者が面白がるかという視点が皆無だ。例外の「植物たちの生」は「アサヒグラフ」に連載したもので、おそらく編集者の筆が入っているのだろう。一度、生活型についての普及書を書いていただけませんかとお願いしたが全く興味をもってもらえなかった。

 その反対が応用動物昆虫学者の岸本良一さんだった。30年ほど前までは、稲の大害虫トビイロウンカやセジロウンカがどこで越冬するのかが大きな謎だった。学会の主流は日本のどこかで冬を越すという越冬説だったが、越冬虫が採集されていなかった。岸本さんが気象庁の定点観測船に乗り込んで、西からの強風に乗って日本に飛来するトビイロウンカ、セジロウンカを大量に採集し、結局中国から飛来していることを突き止めたのだ。そのいきさつを書いた岸本良一「ウンカ海を渡る」(講談社=絶版)はミステリを読んでいるように面白かった。

 面白いか面白くないかは著者の志向によることが大きいのだ。まあ志向すれば即面白いわけではないのだが。少なくとも沼田真さんにそのような志向があったら「生活型」はもっと普及していたに違いない。すべてを記号で表す生活型は、生態的調査の結果をパソコンで解析する方法ときわめて相性がいいのだから。