吉仲太造「明り」

 茅場町界隈の画廊を一回りするつもりで出かけた。ギャラリーArchipelagoではビデオ作品を上映していた。ついでGallery≠Galleryでは福田尚代×成清美朝展を見た。福田さんはヨーロッパ絵画の引用が多いがよく見ると小さな蟻の集合が絵を構成している。
 その後ギャラリーd.gと画廊はねに初めて行く。この二つは経営者が同一でビルの1階と2階にある。d.gでは若手の前衛的日本画展、はねではマコトフジムラ展をやっていた。画廊オーナーの原田俊一さんと話していると、20年近く前、今はない銀座の玉屋画廊から吉仲太造の晩年の小品を買っていまも所蔵しているという。その作品「明り」をわざわざ収蔵庫から出して見せてもらった。


 一目見て息を飲んだ。大きさは8号、白い地に電灯の輪郭が描かれている。とてつもなく美しい。吉仲の晩年の白い絵の中でもこれはとりわけ美しい作品だと思う。
 吉仲は実力の割りに知られていない作家だ。初期はシューリレアリスム、その後新聞の株式欄をキャンバスに貼り込んだり、釘を規則正しく貼り込んだりしたミニマリズムに移り、亡くなる前の数年間この絵のような白い絵に変わる。この白い絵がすばらしい。
 渋谷区立松濤美術館で数年前回顧展が開かれた。もっともっと知られて評価されてしかるべき画家だ。
 この「明り」などは東京国立近代美術館の常設に展示されたら、他を圧して鑑賞者の注目を集めるに違いない。
 絵を見終わった時、思わずオーナーの原田さんに手を合わせお礼を申し上げた。身をもって眼福を味わった。
 ひと言付け加えると、写真の絵もすばらしいが、本物の絵の魅力・美しさはこの何十倍だ。ヌード写真を見た時と、ベッドを共にした時くらいの差があると思う。