「文学全集を立ちあげる」

mmpolo2006-11-07




 丸谷才一鹿島茂三浦雅士「文学全集を立ちあげる」(文藝春秋)が面白い。お勧めです。
 3人が相談しながら世界文学全集全133巻、日本文学全集172巻を選ぶという架空の企画。3人ともよく読んでいて、知らない作家や知らない作品がいっぱい取り上げられる。
 しかし本当に面白いのは、実はこれが古今東西の文学の採点集だという点にある。ある作家を全集に採録する価値があるかないか、採録するとすれば1/2巻か1巻か2巻か、そういった採点だから面白い。
 3人の独断(?)でどんどん決められていく。志賀直哉1/2巻、丹羽文夫1/3巻、漱石3巻、三島由紀夫1巻、安吾1巻、野上弥生子1/2巻、石川淳1巻、西鶴3巻、近松4巻、宣長2巻等々。
 海外では、シェイクスピア2巻、ジョイス2巻、バルザック2巻、プルースト4巻、サルトル1/2巻、ドストエフスキー2巻、トルストイ1巻、ヘンリー・ミラー1/2巻、カポーティ1/4巻、モラヴィア1/4巻、ル・カレ1/3巻等々、大変大胆な結論だ。
 丹羽文夫について、丸谷「短編はうまい、それは認める。でも、長編小説でいいのがないでしょう。あまりにも無思想な人だから、長編書けないんじゃないかな。」
 三島について、丸谷「三島由紀夫の作品はすべてそうなんだけれども、前半は大変いいんだよ。後半になると論理が乱れる。なぜ乱れるかというと、彼の文章の構造とちょうど方解石の逆みたいな感じになっていて、彼の書く文章はレトリックというものはあるけれども、ロジックの裏打ちがないんだよ。」
 ル・カレは1/3巻で「寒い国から帰ったスパイ」が選ばれているけれど、やっぱり「パーフェクト・スパイ」を採るべきだろう。ちゃんと読んでないんじゃないかな。それにA.B.ストロガツキイが入っていない。スタニスワフ・レムが1/3巻だけど、「ソラリスの陽のもとに」が入っているから、まあいいか。私のコメントはミステリとSFだけです。
 しかし、十分楽しめた。1,575円は安かった。