場所と記憶

 上野の美術館へ行った時、秋葉原から山手線に乗り換えて上野駅で降りた。ホームから公園口の改札へエスカレーターを使って上った。エスカレーターに乗っている時不思議な幸福感に包まれた。いまどうしてここでこんな幸福感を感じるのか、そして分かった。
 その半年前、好きだった女性と初デートの待ち合わせ場所が上野駅の公園口改札だった。あの日のエスカレーターを上って行った時の高揚感、幸福感がよみがえったのだ。彼女とはその1回だけのデートで終わってしまったので、その時の感情は忘れていた。しかし場所が覚えていたのだ。正確には場所とセットで記憶していたのだ。公園口改札へ上るエスカレーターという場所が忘れていた記憶を呼び起こしたのだ。
 ちなみに、後日同じエスカレーターを上った時期待した感情は湧き上がってこなかった。