「ちくま」2006年8月号に小林亜星がエッセイを書いている。題して「行ってきました。」
私も無言館に行ってきました。静かな上田の町はずれに、ひっそりと立つ。何処か遠い国の教会のような建物がそれでした。(中略)
部屋に足を踏み入れた瞬間、私は何か背中に、人が囁くような気配を感じました。そして両腕の透き間を、微風が通り抜けたような感覚に襲われました。/最初の絵との対面。/声は出そうもありません。/出たら「ウッ」と呻いたでしょう。/魂がいたのです。(中略)もうじき死ななければならないと知っている若者達の、尊い悔しい魂が、これらの絵の中に、六十年生き残っておりました。(引用以上終わり)
私も無言館に行った。建物がすばらしい。打ちっ放しのコンクリートで作られた平屋建ての小さな美術館。平面プランが十字形で、展示スペースを最優先した壁面が多い設計はオーナーの窪島さんのアイデアだという。
絵が良かった。無言館は戦没画学生の絵を集めた美術館、若い絵描きたちにどうしてこんなに良い絵が描けたのか。
昨年だったか、無言館の絵が東京ステーションギャラリーで展示された。無言館の外で見る絵は未熟でつまらなかった。どうしてこれらの絵がすばらしく見えたのか。そうか、無言館の中でこそ輝いているのだ。
無言館の絵は無言館という場所と一体で見るべき作品なのだ。