映画

淀川長治『究極の映画ベスト100』を読んで

淀川長治『究極の映画ベスト100』(河出文庫)を読む。本書の初版は2003年、淀川は1998年に亡くなっている。「はじめに」を読むと、『淀川長治映画ベスト1000』(河出書房新社)の中から、岡田喜一郎が100本を選んで編集したものだった。 右ページに写真とス…

一番大事なものを失くしたら

山田宏一『新版 映画この心のときめき』は映画評論家山田宏一が1971〜1973年にかけて『キネマ旬報』に連載した映画評をまとめたものだ。ここに紹介されている映画を私はほとんど見ていないが、山田宏一ファンとしてはなかなか楽しい読書だった。さすが映画好…

山田宏一『増補 トリュフォー、ある映画的人生』を読む

山田宏一『増補 トリュフォー、ある映画的人生』(平凡社ライブラリー)を読む。山田宏一を読む楽しみ。 私は戦後フランスのヌーヴェル・ヴァーグの映画が好きなつもりでいた。でも見てきたのはほとんどゴダールのみで、アラン・レネとルイ・マルにエリック…

瀬戸川猛資『夢想の研究』を再読した

瀬戸川猛資『夢想の研究』(創元ライブラリ)を再読した。これは先に紹介した瀬戸川の『夜明けの睡魔』(創元ライブラリ)の姉妹書。「睡魔」がミステリを扱っていたのに、本書は副題が「活字と映像の想像力」というように、映画とミステリを「クロスオーバ…

『かぞくのくに』を見る

ヤン・ヨンヒ監督・脚本の『かぞくのくに』を見る。2012年公開の日本映画を対象にした「キネマ旬報」ベストテンで日本映画の1位に選ばれた。監督のヤン・ヨンヒは在日コリアン2世。 ストーリーをWipipediaから引くと、 在日コリアンのソンホは16歳のとき朝…

山田宏一『映画とは何か』を読んで(その2)

山田宏一『映画とは何か』(草思社)を読む。23人の映画人へのインタビュー集。内訳は、映画監督12人、女優4人、映画評論家3人、その他作曲家やプロデューサーなど。男優は俳優・射撃インストラクターとしてトビー門口ひとりだけ。外国人が14人。昨日の(…

山田宏一『映画とは何か』を読んで(その1)

山田宏一『映画とは何か』(草思社)を読む。23人の映画人へのインタビュー集。内訳は、映画監督12人、女優4人、映画評論家3人、その他作曲家やプロデューサーなど。男優は俳優・射撃インストラクターとしてトビー門口ひとりだけ。外国人が14人。 主な対談…

ローズマリーいろいろ

ローズマリーといえば植物の名前だ。料理に入れて香辛料としても使われる。Wikipediaによれば、次のように書かれている。 ローズマリーは、地中海沿岸地方原産で、シソ科に属する常緑性低木。生葉もしくは乾燥葉を香辛料として用いる。また精油は薬にも用い…

山田宏一『トリュフォーの手紙』を読む

山田宏一『トリュフォーの手紙』(平凡社)を読む。わが愛する金井美恵子が去年9月30日の毎日新聞のコラム「私の好きなもの」で、本書を取り上げていた。それでは読まずばなるまい。 題名からトリュフォーの手紙がそのまま山田宏一の編集で1冊の本になって…

映画『祝の島』を見る

今年6月に銀座ニコンサロンで本橋成一写真展『屠場』を見た。本橋は全国の屠殺場を取材して撮影していた。会場で本橋と話すと、現在屠場の映画を撮っているという。そのちらしをもらって、よく見ると本橋は『祝の島』のドキュメンタリー映画のプロデューサ…

金井美恵子の好きなもの3つ

毎日新聞のコラム「好きなもの」の9月30日は金井美恵子が書いている。このコラムは著名人が好きなものを3つ挙げて、簡単な解説をつけるもの。今回は私の好きな金井美恵子の登場だ。さて、彼女の好きなもの。 1.映画の本と世界 2.トリュフォーの手紙 3…

ルテシアという名前を巡って

以前、渋谷のホテル街で東電OL殺人事件の事件現場アパートを探し歩いていたとき、ルテシアという名前のホテルを見つけ、その名前がなぜか気になった。しばらくして、ロベール・アンリコが監督したフランス映画『冒険者たち』のヒロインの名前がレティシアだ…

映画『裏切りのサーカス』と『ティンカー、テイラー、ソルジャー、スパイ』

映画『裏切りのサーカス』を見た。監督がトーマス・アルフレッドソン、主演がゲイリー・オールドマンだ。映画館のホームページにリピーターが多いと書かれていた。また、ちらしにこんなことが書かれている。 ※本作に限り、ストーリー、人物相関図などを、あ…

今村昌平『遙かなる日本人』を読んで

今村昌平『遙かなる日本人』(岩波同時代ライブラリー)を読む。映画監督今村昌平の自伝かと思ったら、あちこちに書いたものをまとめたエッセイ集だった。映画監督になる過程を素描したものもあり、東南アジアに連れて行かれて売春をさせられた「からゆきさ…

川本三郎『今ひとたびの戦後日本映画』を読んで

川本三郎『今ひとたびの戦後日本映画』(中公文庫)を読む。雑誌『世界』に1992年から1993年頃連載したもの。戦後日本映画について語って、当時の日本の社会を分析したり、ときに女優や男優についても語っている。映画をよく見て深く読み込んでいる。しかし…

新藤兼人監督の映画『墨東綺譚』を見る

新藤兼人 脚本・監督『墨東綺譚』の映画をDVDで見る。1992年制作の作品で、主演が津川雅彦と墨田ユキだった。新藤は『『墨東綺譚』を読む』(岩波現代文庫)で、こう書いていた。 荷風の浅草物と称して書いた舞台脚本は調子の低い物でした。荷風の小説は構成…

立川談志の『談志映画噺』は優れた映画のガイドブックだ

先頃亡くなった立川談志の『談志映画噺』(朝日新書)を読む。とても優れた映画のガイドブックだ。談志が映画に対して深い愛情を抱いていたことがよく分かる。多数の映画評論家たちのガイドブックでなく、1人の主観に偏向したガイドブックという試みがここ…

アラン・ドロンへのオマージュ

毎日新聞2011年12月25日の「好きなもの」というコラムの筆者はシンガー・ソング・ライターの畠山美由紀だった。このコラムは各界の有名人が毎回好きなもの3点をあげ、その理由を書いている。畠山の好きなものは、1.脚注、2.遠野、3.アラン・ドロンだ…

「ゴダールと女たち」を読む

四方田犬彦「ゴダールと女たち」(講談社現代新書)を読む。読み始めてすぐ、私たちは幸福な本に出会うことができたと感じた。ゴダール論であり、そのゴダールの映画に主演した女優でゴダールと深く関係した5人を取り上げた女優論でもある。その5人は、ジ…

「大鹿村騒動記」を見て

映画「大鹿村騒動記」を見た。主演の原田芳雄が先日急死し、それが話題になったのかヒットしているという。だが派手な映画ではない。 大鹿村は長野県の南部に実在する山村だ。岩塩が採れ鹿が舐めに来るとかでこの名がある。日に何本かのバスが走っているくら…

竹中労「鞍馬天狗のおじさんは」が面白い

竹中労の「鞍馬天狗のおじさんは」(ちくま文庫)がとても面白い。副題が「聞書アラカン一代」で、戦前から戦後にかけて大ヒットした映画「鞍馬天狗」を演じた大スター嵐寛寿郎への聞書をまとめたものだ。アラカンはサイレント時代から戦後までチャンバラ映…

伝説の女優の伝記「原節子 あるがままに生きて」を読む

貴田庄が書いた伝記「原節子 あるがままに生きて」(朝日文庫)を読む。「伝説の女優」と言われた原節子のことを何も知らなかった。昨年渋谷のシネマヴェーラで岡田茉莉子特集を見たとき、小津安二郎の撮った「秋日和」に、初めて見るが何か存在感のある女優…

井上ひさし作「ムサシ」を映画で見て

昨年亡くなった井上ひさしの最後から2番目の芝居「ムサシ」の評判がとても良かった。でも芝居は料金が高いから見に行かれなかった。非常に残念に思いながら。それが知らない内に映画になっていた。舞台をそのまま撮影しているのだ。演出はもちろん蜷川幸雄…

四方田犬彦「『七人の侍』と現代」はお勧め

四方田犬彦「『七人の侍』と現代」(岩波新書)がすばらしい。四方田犬彦は明治学院大学で映画史を教えている。四方田にとって黒澤は偉大だが過去の映画監督だった。そう思っていたが、パレスチナとユーゴスラビアへ文化交流使として行ったとき、黒澤の映画…

小津安二郎の「秋日和」

岡田茉莉子の自伝「女優 岡田茉莉子」(文藝春秋)が出版されたのを記念して、ポレポレ東中野で岡田茉莉子特集が組まれている。先日そこで小津安二郎の「秋日和」を見た。劇場で小津を見たのは初めてだった。45年ほど前に何作かテレビで見ていた記憶がある。…

濡れ場の表現いろいろ

私は以前「ねじめ正一『荒地の恋』を読んで、また猫山のこと」(2007年11月19日)に、ねじめ正一が書いた晩年の北村太郎の伝記で、北村が若い恋人阿子と知り合い「北村は合羽橋で買った専用の小鍋で上手に親子丼を作った。二人で向かい合って食べ、それから…

『ティファニーで朝食を』の原作と映画

『ティファニーで朝食を』といえば、たいていの人がオードリー・ヘップバーンの映画を思い浮かべるだろう。小説『ティファニーで朝食を』の訳者村上春樹はそのあとがきでこう書いている。 映画は原作とはけっこう違った話にはなっているものの、なかなか小粋…

ソクーロフ「チェチェンへ/アレクサンドラの旅」

ソクーロフ監督作品「チェチェンへ/アレクサンドラの旅」を渋谷ユーロスペースで見る。撮影時点で80歳のロシアのソプラノ歌手ガリーナ・ヴィシネフスカヤが主演の戦争映画。といってもおばあさんがチェチェン駐屯のロシア軍の孫を訪ねる話。不便な貨車に兵…

「チェチェンへ アレクサンドラの旅」

朝日新聞12月12日夕刊に映画評論家の山根貞男が、昭和天皇をモデルにした「太陽」を撮ったアレクサンドル・ソクーロフの新作映画「チェチェンへ アレクサンドラの旅」を紹介している。 おばあちゃんが兵舎にいる孫を訪ねる。たったそれだけの話が、なぜこれ…

吉田喜重監督の作品を追いかけていた

ヴィスコンティが1972年に制作した映画「ルートヴィヒ」の完全版をシネマヴェーラ渋谷で見た。上映時間4時間の完全版、途中全くだれることがなく至福の時間を体験した。豊かな映画だった。 ヴィスコンティを見たのは昨年の「山猫」完全版に続いてやっと2本…