2012-01-01から1年間の記事一覧

東京オペラシティアートギャラリーで篠山紀信展を見た

新宿区初台の東京オペラシティアートギャラリーで篠山紀信展「写真力」が開かれている(12月24日まで)。篠山は秋山庄太郎の後、女優などスターたちの肖像写真家としてまぎれもなく第一人者だろう。今から振り返ればいささか古くさい秋山と違ってはるかにモ…

宮田昇『新編 戦後翻訳風雲録』を読む

宮田昇『新編 戦後翻訳風雲録』(みすず書房)を読む。これが滅法おもしろかった。著者は早川書房に勤め、のち著作権代理店のタトル・モリ エージェンシーに移り、その後海外著作権エージェントの代表者になる。 宮田が付き合った翻訳者で、まず田村隆一が語…

書評家 豊崎由美の推す現代の純文学作家は

朝日新聞に「作家・石原慎太郎 評論家が語る」という記事が掲載されていた(11月27日付け)。石原慎太郎の文学作品を書評家の豊崎由美が語っている。 豊崎さんは『文学賞メッタ斬り!』(大森望氏との共著)で石原氏の芥川賞選評を鋭く批判した。ではいま石…

なびす画廊の瀧田亜子展を見る

東京銀座1丁目のなびす画廊で瀧田亜子展が開かれている(12月1日まで)。瀧田は1972年東京都生まれ。なびす画廊での個展は今年の4月に続いて今回で13回目になる。特に2012年、2011年、2010年、2009年、2006年は春秋と年に2回も個展を行っている。旺盛な…

会田誠の『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』を読む

会田誠の『美しすぎる少女の乳房はなぜ大理石でできていないのか』(幻冬舎)を読む。題名が過激なので持ち歩くのがためらわれ、カバーをかけて読んでいた。そのカバーには「日本の知、本の力。丸善」と印刷されている。 標題の由来となったエッセイは、会田…

松田正平のムベのドローイング

松田正平は気まぐれ美術館の洲之内徹が絶賛している画家だ。松田の薔薇の絵は梅原龍三郎の薔薇より良いという。色彩の美しい画家だ。これは松田正平のムベのドローイング。ムベはアケビの仲間で、アケビと異なり熟しても実が割れない。ドローイングとムベの…

千葉市美術館の須田悦弘展を見る

千葉市美術館で須田悦弘展が開かれている(12月16日まで)。須田悦弘について、「はてなキーワード」によると、 1969年山梨県生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業。在学中に彫刻の課題でスルメをつくり、木彫りの魅力に開眼。木を彫り、彩色をし…

出版広告のいろいろ

朝日新聞朝刊にハルキ文庫の全面広告が掲載されていた(11月19日付け)。文庫だけで全面広告を出すのは、ハルキ文庫のほか角川文庫、幻冬舎文庫などがある。もっともこの3社は親戚みたいなものだ。ハルキ文庫の角川春樹事務所も幻冬舎も角川書店が出身だ。…

山口晃『ヘンな日本美術史』を読む

山口晃『ヘンな日本美術史』(祥伝社)を読む。ちっともヘンではないしおもしろかった。もしヘンだというなら、取り上げ方だろう。画家の選択がオーソドックスではなくユニークなのだ。まず日本の古い絵として、鳥獣戯画、白描画、一遍聖絵、伊勢物語絵巻、…

青柳いづみこの『グレン・グールド』がすばらしい

青柳いづみこの評伝『グレン・グールド』(筑摩書房)がすばらしい。著者がしばしばリサイタルを開いている現役のピアニストであることから、ピアノの演奏技術についても詳しく分析している。しかしそればかりではなく、たくさんのコンサートの記録−録音や映…

なびす画廊の新井コー児展が始まった

東京銀座1丁目のなびす画廊で恒例の楽しい新井コー児展「のんびり行こうよ」が始まった(11月24日まで)。新井は1973年群馬県高崎市生まれ、1996年に多摩美術大学油画専攻を卒業している。なびす画廊では2004年から今回で9回目の個展を開いている。 新井は…

ギャラリイKの八代萌展がすばらしい

東京京橋のギャラリイKで開かれている彫刻の八代萌展がすばらしい(11月24日まで)。この個展は多摩美術大学大学院生の中から同大学の彫刻科研究室主催で優秀な学生を選抜し個展を開催したものだ。期待に違わない彫刻展だ。八代は1989年神奈川県川崎市生まれ…

ギャラリー小柳の内藤礼展「地上はどんなところだったか」

銀座のギャラリー小柳で内藤礼展「地上はどんなところだったか」が開かれている(11月22日まで)。 今回の展示は高さ3センチ〜5センチほどの人型の木彫作品が21点、中くらいの大きさのタブローが3点、それより一回り大きいタブローが1点、「天使の枕」と…

ポルトリブレの木許太三郎展がすばらしい

新宿2丁目のアートスペース ポルトリブレで開かれている木許太三郎展がすばらしい(11月19日まで)。木許は1930年、大分県生まれ。大阪の東京芸術学院を卒業している。オーナーだった磯良氏に気に入られ長くギャラリー汲美で個展を続けていたが、磯良氏が亡…

片岡義男『日本語と英語』を読む

片岡義男『日本語と英語』(NHK出版新書)を読む。なかなか楽しかった。片岡は祖父がハワイの日系移民、父が日系2世で、少年時ハワイで過ごした経験があるという。幼い頃から日英の言語に親しみ、また二つの言語の微妙な違いにも関心を持ってきたようだ。日…

オオカミの護符があった

以前、小倉美恵子『オオカミの護符』(新潮社)を紹介した。御嶽山のオオカミの護符を調査し、そのいわれ=オイヌさま=山犬=オオカミ信仰の源流を突き止めた興味深い書だった。そのオオカミの護符に偶然ながら巡り会った。 先月、「アートプログラム青梅20…

養清堂画廊の「Little Christmas 小さな版画展」が魅力的

東京銀座5丁目の養清堂画廊1Fで「Little Christmas 小さな版画展」が開かれている(11月17日まで)。48名の版画家が各1点ずつ、A4サイズの版画作品を展示している。すべて60部限定、定価7,000円(税別・シートのみ)。 ・ ・ 48名の作家は、岩淵華林、岡…

HARMASギャラリーで佐藤イチダイ展"talking about..."を見る

東京江東区清澄のHARMASギャラリーで佐藤イチダイ展"talking about..."を見る(11月17日まで)。佐藤は1983年群馬県高崎市生まれ、2006年に多摩美術大学油画専攻を、2008年に同大学院美術研究科を修了している。2009年に銀座のフタバ画廊で初個展をし、2011…

11月の植物など

今年はボケの生らない年だった。多い年は1kg近く収穫できたこの木も、今年は親指くらいの実が数個生っているだけだった。この木ばかりでなく、毎年観察(?)している数カ所のボケでも同じだった。 西洋朝顔「天の青」が咲いている。高樹のぶ子の小説『百年…

第10回アートプログラム青梅2012「存在を超えて」を見る(その3)「地への一雫」

先日、青梅市で開かれている第10回アートプログラム青梅2012「存在を超えて」を見てきたが、「その1」では青梅市立美術館の展示を紹介し、「その2」では青梅織物工業協同組合の作家たちと市内の学生たちの作品を紹介した。今回は学生たちの作品の続きであ…

ギャラリー檜plusで加納野乃子展「ボーダーランド」を見る

東京京橋のギャラリー檜plusで加納野乃子展「ボーダーランド」を見る(11月10日:今日まで)。加納は1982年神奈川県生まれ、2007年に東京造形大学美術学科絵画専攻を卒業している。2003年から埼玉県の画廊を中心にグループ展に参加しているが個展は今回が初…

原武史『団地の空間政治学』を読む

原武史『団地の空間政治学』(NHKブックス)を読む。以前読んだ同じ著者の『滝山コミューン1974』が面白かったので期待した。ところが期待していた内容と違っていた。早とちりの私がいけないのだが、私は「団地の空間学」について書かれた本だと思ってしまっ…

第10回アートプログラム青梅2012「存在を超えて」を見る(その2)

先日、青梅市で開かれている第10回アートプログラム青梅2012「存在を超えて」を見てきたが、「その1」では青梅市立美術館の展示を紹介した。今回はその続編である。美術館同様、青梅織物工業協同組合、吉川英治記念館では作家たちの作品を展示しており、市…

奈良美智展を見て

横浜美術館の奈良美智展を見る。今回は大きなブロンズ像がメインのようだった。相変わらず多くの若者たちが見に来ていた。チケットを買うまで15分間並ぶ。それ以降は順調に見ていくことができた。 奈良の平面作品はどうしてもおもしろいと思えない。これはイ…

第10回アートプログラム青梅2012「存在を超えて」を見る(その1)

青梅市で開かれている第10回アートプログラム青梅2012「存在を超えて」を見てきた(11月25日まで)。青梅市立美術館、青梅織物工業協同組合、吉川英治記念館や青梅市内の寺社や商店、民家などが協力して美術家たちや、美大の学生たちの作品を市内あちこちに…

ネットで文字は売れるか

朝日新聞のオピニオン欄「耕論 ネットで文字は売れるか」で、ネットニュース編集者の中川淳一郎が面白い発言をしている(11月3日)。 私は、ネットニュースをアップする編集者です。言葉は悪いですが、あえて言います。日々の仕事は、押し寄せるバカとの闘…

中川右介『グレン・グールド』を読む

中川右介『グレン・グールド』(朝日新書)を読む。24歳で最初のバッハの『ゴルドベルク変奏曲』を録音し、独特の演奏が高い評価を集め一躍有名になった。本書副題に「孤高のピアニスト」とあるように、人気の高いピアニストだったにも関わらず、32歳で突然…

たけだ美術でドナルド・ジャッドを見る

東京銀座7丁目のたけだ美術で「Mini × Mono」展が開かれている(11月9日まで)。Mini × Monoは「ミニマリズムとモノクローム展」を意味しているという。取り上げられている作家は、ドナルド・ジャッド、李禹煥(リ・ウーハン)、菅木志雄の3人だ。このジ…

藤原えりみ『西洋絵画のひみつ』に教えられる

藤原えりみ『西洋絵画のひみつ』(朝日出版社)を読んで、いろいろ教えられた。本書はいわゆるヤングアダルト向けに書かれた西洋美術の入門書というか、キリスト教美術の図像の意味を教えてくれる図像学の入門書だ。半分以上の漢字にルビが振ってある。中学…

遠藤周作『わたしが・棄てた・女』を読む

最近読んだ誰かの本で遠藤周作『わたしが・棄てた・女』が強く推されていたので今度読んでみた。もう40年前、これを映画化した浦山桐郎監督の作品『私が棄てた女』を見て感心したのを憶えている。映画では女工のミツが大学生の吉岡努と関係したあと2回棄て…