藍画廊の大場さや展を見る

 東京銀座の藍画廊で大場さや展「地の色」が開かれている(10月4日まで)。大場さやは1980年宮城県生まれ、2006年に東北芸術工科大学大学院彫刻領域を修了している。2015年Hasu no hanaで初個展。

(DM葉書)

「地の色」

「硝子の輪」

「glass cookie

「glass cookie

「glass cookie



 画廊の真ん中の床に置かれている「地の色」と題された作品―セメントとガラスで作られた直方体を24個重ねたもの―がとても良かった。「硝子の輪」というのは、輪でもあり、底がない入れ物のようでもある。「glass cookie」と題された作品は3点あり、ガラスとセメントで作られている。箱の中のパーツを入れ替えたりするゲームのようでもあり、これも面白かった。ガラスの円盤の表面に砂を溶かし込んだ作品は床の上に直に置かれていた。

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大場さや展「地の色」

2025年9月29日(月)-10月4日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)

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藍画廊

東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル502号

電話080-1046-7064

https://igallery.sakura.ne.jp/

 

アートスペース羅針盤の古山由樹展を見る

 東京京橋のアートスペース羅針盤で古山由樹展「風のとおりみち」が開かれている(10月4日まで)。古山由樹は京都芸術大学日本画コースを卒業し、武蔵野美術大学通信教育課程版画コースを卒業、さらに武蔵野美術大学大学院日本画コースを修了している。今回が初個展だという。

 小山の言葉、

本作品(「風を観る―プロムナード」)は、風を“自然の息吹”として捉え、その見えない動きを視覚化しました。

約2000枚の葉が舞う絵の前を歩きながら鑑賞することで、散策する感覚に近づけるよう制作しました。

 

「風を観る―プロムナード」

「風を観る―プロムナード」

「風紀Ⅰ、Ⅱ」

「風紀Ⅰ」

「風紀Ⅱ」


 その「風を観る―プロムナード」は左右700mm(7m)もある大作。無数の木の葉が舞っていてまさに風を描いている。大胆で繊細な作品だ。

 しかし、私には「風紀Ⅰ」「風紀Ⅱ」と題された50号の作品2点が面白かった。ひとつは台所の流し、もうひとつは洋式トイレを描いている。まずこれらをモチーフに選んだことのユニークさ、そしてその描き方の省略が面白い。同時にそれらを単に斜に構えて描いているのではなく、優れて見事な作品に仕上げているのが素晴らしい。

 古山と話したら、省略の技法については雪舟など水墨画を研究したとのこと。なるほど、きちんとした裏打ちがあるのだった。

 木の葉の動きで風を描いている作品は伝統的な作風で完成度が高いと言えるが、台所の流しや洋式トイレの作品はきわめてユニークで、この後の展開が楽しみだと思ったのだった。

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古山由樹展「風のとおりみち」

2025年9月29日(月)-10月4日(土)

11:00-19:00(最終日17:00まで)

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アートスペース羅針盤

東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビル2F

電話03-3538-0160

https://rashin.net/

 

山本弘の作品解説(118)「赤石林道」

山本弘「赤石林道」、油彩、F4号(24.2cm×33.3cm)

 1967年、山本弘が37歳の時の作品。この年、山本は友人たちとできたばかりの赤石林道へスケッチ旅行に行った。赤石林道は喬木村から上村へ抜ける林道。曲がりくねった山道の連続だ。

 山を削って作られた道が大きく右に曲がっている。削られた山肌が赤土の茶色で新しい道であることを示している。木には赤い花が咲いている。轍が見えるのは未舗装なのだろうか。空は一面灰色に塗られているが、このパレットナイフで描かれた空の筆触はまさに山本弘の特徴だ。

 10月に開くギャラリー檜での個展に展示する予定。

 

亀山郁夫対談集『ショスタコーヴィチを語る』を読む

 亀山郁夫対談集『ショスタコーヴィチを語る』(青土社)を読む。ロシア文学者の亀山郁夫ソ連の作曲家ショスタコーヴィチについて音楽関係者や評論家、作家など10人と対談をしている。総ページ数が550ページを超える分厚い本。対談の相手は、岡田暁生浅田彰島田雅彦、梅津紀雄、青澤隆明、小林文乃、吉松隆、原田英代、一柳富美子、井上道義という錚々たるメンバー。

 亀山郁夫ショスタコーヴィチに関する伝記を書いているほど入れ込んでいるが、岡田暁生からはショスタコーヴィチは嫌いだと言われる始末。一柳富美子はショスタコーヴィチの研究者だが、亀山の持論ショスタコーヴィチ二枚舌論を否定している。

 青澤隆明は音楽評論家で、ピアニストに関する著書もあり朝日新聞に一度だけ音楽会評を書いたことがあるが、どちらもひどい文章だった。この対談ではまともな会話になっていて、文章を書くと気取って衒学趣味になるんだということが分かった。素直に書けば良いのに。

 作曲家の吉松隆の話は面白かった。でも一番面白く読んだのは井上道義との対談だった。井上は発言量が多く、いかにもショスタコーヴィチが好きなんだということが伝わってくる。ショスタコーヴィチの全交響曲指揮をして録音している。

 ピアニストの原田文代はショスタコーヴィチの「24のプレリュードとフーガ」を高く評価している。その曲はタチヤーナ・ニコラーエワの録音が有名だ。

(……)ニコラーエワの弟子には、マリア・ユーディナがいましたけど、ヴォルコフの本に出てくるあのポリフォニーにまつわる話、すごく面白いです。ニコラーエワが、「ユーディナの弾く(バッハの)四声部のフーガを聴いてごらん、どの声部もそれぞれ異なった音色をもっているから」というので、ショスタコーヴィチがニコラーエワの聞き間違いを確認しようと彼女の演奏を聴きに行ったら、本当に彼の言ったとおりだったと書いています。私もユーディナのバッハを聴いてひっくり返るぐらい驚きました。でもね、余談ですけど、ポリフォニーがたくさん出てくるベートーヴェンソナタ作品101を彼女の演奏で聴いた後、ホロヴィッツの演奏を聴いたら、ホロヴィッツポリフォニーがもっとすごくて、びっくり。ホロヴィッツという人はやっぱりとんでもない人だってつくづく思いました。

 

 いくつか校正ミスの指摘を、

「録音は、リハーサルも何もしないで一発撮りだったそうです。」→「一発録り」(p.381)

「でも、残念ながらこの小説(『巨匠とマルガリータ』)が刊行されたのが、1860年代後半」→「1960年代後半」(p.387)

「だから、そういうなんなかあれが……」→「なんなのかあれが」(p.389)

 亀山郁夫の『ショスタコーヴィチ』は最近、岩波現代文庫から刊行された。以前単行本で出版された折、このブログでも紹介したことがあった。

亀山郁夫ショスタコーヴィチ』を読む

https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20180706/1530864177

 

 

 

 

MASUMI SASAKIギャラリーの石川慎平展を見る

MASUMI SASAKIギャラリーの石川慎平展を見る

 東京森下のMASUMI SASAKIギャラリーで石川慎平展「金色in my head」が開かれている(10月4日まで)。石川慎平は1989年東京生まれ、2014年に多摩美術大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。2013年にギャラリイKで初個展、以来EARTH+ギャラリーやKOMAGOME1-14casなど都内の様々なギャラリーで個展を繰り返してきた。群馬青年ビエンナーレでは入選している。

 ギャラリーのホームページより、

本展覧会で発表する新作「bobblehead」は、世界中の彫刻頭部の画像を平均化して作られたモデルを彫刻にした、”平準的な”頭部を持つ人物彫刻ですが、その体は指を伸ばして別の頭部を指し、それが本来の頭部であると示しているかのようです。

この作品は人体彫刻の頭部と胴体が切り離され、それぞれが違う美術館で保存されている状況を作品化したもので、実際に行われた頭と胴を元に戻すプロジェクト(1979年にデンマーク・グリプトテク美術館で行われた、同館が所蔵する頭部と、メトロポリタン美術館が所蔵する胴体をともに展示したプロジェクトなど)を見て、石川が感じた違和感が制作の起点になっています。これは時代の変化によって物事の価値が変化するという共同幻想のあり方を揶揄しているようであり、また、今回併せて展示される新作の映像作品「No Limit」では、そのような社会の中で生きる私たちを鼓舞するように、3DCGで作成された幼少期の作家自身の彫刻が、様々な苦境に立たされながらも決して倒れることなく立ち上がり、台座から落ちても舞い戻ります。

 


 ギャラリーは1年前に神楽坂から移転したとのこと、路面店でもあり、都営地下鉄新宿線大江戸線森下駅からすぐという立地にある。とりわけ天井高がきわめて高いという大型の立体作品の展示にはうってつけのスペースだ。

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石川慎平展「金色in my head」

2025年9月13日(土)-10月4日(土)

14:00-19:00(日・月・火曜休廊)火曜はアポイントメント制

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MASUMI SASAKIギャラリー

東京都江東区新大橋3-17-10 水野ビル1F

電話090-6427-3827

https://art-reason.com/