Stepsギャラリーの田中啓一郎展を見る

 東京銀座のStepsギャラリーで田中啓一郎展「Right becomes Left」が開かれている(9月28日まで)。田中啓一郎は1990年東京生まれ、2015年に東京造形大学造形学部美術学科絵画専攻を卒業し、2019年ギャラリーHANAで初個展。



 絵画専攻というが、作品はほとんど彫刻またはレリーフと言える。キャンバス様の形を立体化して、その表裏に加工をして、本来媒体であるキャンバスを造形の主役に引き出している。あるいは平面であるようなキャンバス様の媒体の端を曲線面に加工している。

 平面と立体の中間、イメージと媒体の中間を作品にしている。今後の展開が楽しみだ。

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田中啓一郎展「Right becomes Left」

2024年9月21日(月)-9月28日(土)

12:00-19:00(土曜日17:00まで)

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Stepsギャラリー

東京都中央区銀座4-4-13琉映ビル5F

電話03-6228-6195

http://www.stepsgallery.org

 

フマ コンテンポラリーアートの平賀敬大作展を見る

 東京八丁堀のフマ コンテンポラリーアートで平賀敬大作展「酒とバラの日々 その世界」が開かれている(9月28日まで)。平賀敬は1936年東京生まれ、1958年立教大学経済学部を卒業している。1964年国際青年美術家展大賞を受賞、1965-1967年アメリカの8つの美術館を巡回した「日本の新しい絵画と彫刻展」に出品、1965年パリ留学、1969年サンパウロビエンナーレ日本代表に選ばれる。1974年フランスから帰国、2000年平塚市美術館で大回顧展、同年没する。

【以下1960年代の作品】


【以下1990年代の作品】


 私は1990年代に開かれた東邦画廊での新作展を見ていた。現代の風俗画のような半裸の女たちと黒服の男たちが絡む具象画だ。それが面白く思えなかった。今回はその90年代の作品のほかにパリ時代の大作が並んでいる。この60年代のパリ時代の作品がとても良かった。平賀敬ってこんなに良かったんだと見直した。現在国立新美術館で開かれている田名網敬一展よりはるかに良い。

 平賀敬が優れた画家であることが忘れられているのではないか。ぜひ多くの人に見てもらいたい。フマ コンテンポラリーアートは文京アートとも言い、これまた忘れられた画家吉仲太造の個展を繰り返している。

 地下鉄日比谷線八丁堀駅から徒歩数分だ。

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平賀敬大作展「酒とバラの日々 その世界」

2024年9月17日(火)-9月28日(土)

12:00-19:00(日月祝休廊)

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フマ コンテンポラリーアート

東京と中央区入船1-3-9 長崎ビル9F

電話03-6280-3717

http://bunkyo-art.co.jp/

 

オフィスIIDAの佐藤杏子展を見る

 東京銀座のオフィスIIDAで佐藤杏子展「Oil paintingを中心に」が開かれている(10月5日まで)。佐藤杏子は1954年、茨城県土浦市生まれ。1980年、多摩美術大学大学院を修了している。1978年から日本版画協会展に毎年出品し、1995年に準会員優秀賞受賞。1989年ギャラリー砂翁&トモスで初個展。以後各地の画廊で個展を繰り返し、中華民国ポーランドルーマニアなどのグループ展に参加し、またチェコ文化庁在外研修員として滞在している。2005年、「DOMANI・明日展」に出品、2010年にはいわき市立美術館で個展を行っている。

 佐藤のコメント

今回の展示は、サイズの違うスクエアの油画の展示です。

普段モノクロのドローイングや版画のドライポイントといった線の仕事が多いのですが、その反動と色の仕事に特化した油画では、色を大切にした抽象を楽しんでいます。

予測できない色彩の重なりに、知らない自分に出会う喜びがあります。

油画以外にもカラーの蜜蝋画やガラス絵も予定しています。

 



 今回は版画ではなく油彩を出品している。これがとても良かった。佐藤は実は色彩に優れたカラリストだったのだ。5年前にもここオフィスIIDAで油彩を展示していたが、今回いっそう充実している印象だ。

 オフィスIIDAは小さな空間なので、佐藤の作品も大きくて30cm四方という小品だ。LPレコードのジャケットの大きさだというが、若い世代には通じないかもしれない。

 毎日描いているというドローイング帳も展示されていた。

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佐藤杏子展「Oil paintingを中心に」

2024年9月23日(月)-10月5日(土)

13:00-17:30(日曜休廊)

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オフィスIIDA

東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル408号室

電話03-3564-3218

http://officeiida.com

 

大森洋平『考証要集』を読む

 大森洋平『考証要集』(文春文庫)を読む。副題が「秘伝! NHK時代考証資料」。著者の大森洋平NHK時代考証業務を担当、2013年現在NHKドラマ番組部シニア・ディレクター。長年まとめた職員向け資料を上梓したもの。

 なるほど知らない事柄が満載されている。

 

アメリカンコーヒー  米軍制度に詳しいミリタリー・ライターの菊月俊之氏によると、これは第2次大戦中、米軍内でもさすがに物資が不足したために、コーヒー豆の節約法として考案された飲み方という。

 

インチキ  これは上方語で、江戸語は「いかさま」である。

 

馬に乗る  日本古来の馬術では、馬の右側から乗るのが正しい。(……)老若男女一律右側、例外はない。

 

享年〇歳  「享年〇」と「歳」はつけないのが正しい。これは「年ヲ享クルコト〇」の意味で、そこに「歳」がついては繰り返しの蛇足になる。

 

桜田門外の変  井伊大老襲撃の際に水戸浪士が使用した拳銃は、6連発の西洋拳銃(リボルバー)である。(……)使用されたリボルバーの種類は、米国製コルト、それを水戸藩内でコピーした日本製、等の説があるが、連発銃であることにはかわりはない。

 

弱冠  これは「20歳」という意味である。「弱冠〇歳」は間違い。(……)「若冠」に至っては、恥の上塗りである。

 

姑の毒殺法  包丁の刃の左側にのみ致死性の毒を塗り(左利きの人は右側),羊羹、カステラ、蒲鉾等を切る。すると、最初の一切れには毒がついていない。その一切れを自分が食べて「お義母さま、おいしいですわよ」と安心させ、毒がついた二切れ目をすすめる。余毒があれば三切れ目を小姑に食べさせる。

 

鳥肌が立つ  この言葉を「感動した」意味に誤用するのは最近の日本語の悪弊である。嫌う人は大勢いるので、とりわけ時代劇の台詞では誤用に注意すべし。

 

 ほかにも教えられること多々、座右の書と言える。

 

 

 

アートトレースギャラリーの田中綾子展を見る

 東京両国のアートトレースギャラリーで田中綾子展「例えば、コップの水をただ見つめるように」が開かれている(9月30日まで)。田中綾子は1993年大阪府生まれ、2019年に東京藝術大学美術学部彫刻科卒業、2021年同大学大学院美術研究科彫刻専攻を修了している。2021年にガルリHで初個展、その後も2022年、2023年に同じガルリHで個展を、2024年にはDIEGOで個展を行っている。

 田中の言葉をホームページから拾ってみる。

無意識に起こる記憶の改竄や捏造について、また自分自身と他者の記憶の境界や、自意識について思索し、作品を制作しています。

もしも明日の朝、目が覚めたときに何もかも忘れてしまっていたとしたら、それまで生きてきた「私」として生きることは難しいかもしれません。

「私」を「私」として保つためになければならない「記憶」。 しかしそんな「記憶」は時間と共にいつの間にか書き変わり、抜け落ち、変化し続けています。

アイデンティティの在処としての「記憶」、そしてその脆弱性から、人の儚さや生きることの不安定さに思いを巡らせています。

 



 ガルリHは企画画廊で画廊は販売を重視している。今回のアートトレースギャラリーは作家たちの自主運営なので、販売にこだわらなくても良いのだろう。ガルリHの展示に比べて、インスタレーションに力を入れていて、こちらの方が田中の本当にやりたいことなのだろう。

 しかし、田中のインスタレーションは難しくてよく分からなかった。

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田中綾子展「例えば、コップの水をただ見つめるように」

2024年9月8日(日)-9月30日(月)

12:00-19:00(木曜休廊)

開催日時に変更の可能性もあるので、来場に際してはSNS等で確認してほしいとのこと。

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アートトレースギャラリー

東京と墨田区緑2-13-19 秋山ビル1F

https://www.gallery.arttrace.org/

都営大江戸線両国駅A5出口から徒歩5分

JR総武線両国駅東口から徒歩9分

墨田区立緑小学校前