上野の森美術館のVOCA展を見る



 東京上野の上野の森美術館で「VOCA展2023」が開かれている(3月30日まで)。VOCA展は、「平面美術の領域で高い将来性のある若手作家を奨励する展覧会で、今年で30回目の開催を迎えます」とちらしにある。

 受賞作品を紹介する。

永沢碧衣(VOCA賞)

七搦綾乃(VOCA奨励賞、大原美術館賞)

黒山真央(VOCA佳作賞)

田中藍衣(VOCA佳作賞)

上野友幸(賞外・入選)

 

 ざっと見てみて、入選作も含めてどれも評価できなかった。もっともたった1点だけで評価するのも難しいのだけれど。この中から受賞作品を選ばなくてはいけない審査員も大変だなあと同情したのだった。

 ただ、どんな形にしろ、若い作家を評価して賞を与え、賞金を授与することは十分意義があることだと思う。賞外や選外の作家たちも機会はまだまだあるのだから頑張ってほしい。今売れっ子の加藤泉も入賞はしなかったし。上前智祐のように90歳を過ぎてから評価された画家もいるのだから。

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VOCA展2023」

2023年3月16日(木)-3月30日(木)

10:00-17:00

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上野の森美術館

東京都台東区上野公園1-2

https://www.ueno-mori.org/

 

 

大岡昇平『成城だよりⅡ』を読む

 大岡昇平『成城だよりⅡ』(中公文庫)を読む。大岡が1981年の日記を『文学界』に連載したもの。大岡73歳。足が衰えて自分のことをよれよれのもうろくじじい等と自嘲している。しかし舌鋒は変わらず鋭い。

 

(……)青山学院院長大木某、縁故入学は創業以来の方針なりと尻をまくる。(…)筆者は青学旧制中学5年2学期までいて、よく知っているが、メソジスト・ミッションで、大幅に寄附に頼っていたから、キリスト教関係、校友関係の優先は不文律だった。たしかに創業以来の方針で悪いこととは誰も思わなかった。しかし現在は政府の助成金なくしては運営できず、助成金の見返りに自民党幹部のどら息子を入れる、となるとおだやかではない。なぜふいにこんなことをいい出したのか。

(中略)文部省厳正なる方針を以てのぞむというが、厳正で臨んだら、全国の教師のあごが干上がってしまうだろう。寄附と縁故に頼るべき私学に、国家の助成金を要する大学のマンモス化が問題の根源だろう。人命にかかわる医科大学のほかはのんびりやるべし。

 

(……)ゲーデルをやって、柄谷(行人)氏の『ソシュールの思想』の書評「「中央公論」3月号」を読み返したが、ますますわからなくなった。私の読解力、ぼけて減退しているか、氏がへんな数学用語で話をこんぐらかしているのか、どっちかだろう。「文藝」5月号の「性的なもの」中の「不完全定理」は誤植と見なしておくとするも、ゲーデルは予想外にむずかしい。柄谷氏の文章はこん後は敬して遠ざくることにする。

 しかし氏の難書評のお蔭にて丸山圭三郎ソシュールの思想』(岩波書店)を読む機会を得たことには感謝する。『ソシュール講義』には弟子たちのソシュールになき文や挿画が附加されているとのうわさは聞いていたが、これほどひどいとは思わなかった。誤れるテキストによるバルト、メルロ・ポンティ、時枝誠記などの所論とのずれ、よくわかった。

 

 日記は1月のみ31日まで書いているが、あとの月は13日から21日までしか書いていない。なぜだろうと思ったら、『文学界』の原稿締切が18日とあったので、多忙の大岡としては、連載原稿を編集者に渡してしまえば、もう来月までは書かないことにしようと思ったのに違いない。自分の著作集の校訂作業や、『富永太郎全集』の編集作業で、ほかに何かを書くゆとりがないことを繰返し述べている。

 

 

 

藍画廊の福田正明個展を見る

 東京銀座の藍画廊で福田正明個展「日常」が開かれている(3月25日まで)。福田は1986年神奈川県生まれ、和光大学を卒業している。初個展はギャラリー坂巻、最近はここ藍画廊でもう数回個展を開いている。

 福田は今までコミケコミックマーケット)でコスプレをする娘たちを描いてきた。それが今回はありふれた服装の女性が描かれている。しかし同じポーズの同じ大きさの女性像が14点も並んでいる。

 福田のコメント、

私は「日常」を再現している

日常的な情景や物で再現しているわけではない

日常を日常たらしめている構造によって日常を再現している

日常の構造とは、繰り返しと差異である

 


 福田は日常とは繰り返しだと言う。1枚の写真を元に女性像を描く。それを繰り返して同じような作品が14点並んでいる。しかし、どれも似ているが微妙に違っている。その繰り返しと差異を福田は日常と呼んでいる。

 福田のコンセプトの面白さが今回の個展を成立させている。

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福田正明個展「日常」

2023年3月20日(月)-3月25日(土)

11:30-19:00(最終日は18:00まで)

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藍画廊

東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル3階

電話03-3567-8777

http://igallery.sakura.ne.jp/

 

 

√kコンテンポラリーの浜田浄展を見る

 東京新宿南町の√kコンテンポラリーで浜田浄展が開かれている(3月25日まで)。浜田は1937年高知県出身、1961年に多摩美術大学美術学部油画専攻を卒業している。2015年には練馬区立美術館で個展が開かれている。

 √kコンテンポラリーは地上3階、地下1階の現代美術専門のギャラリーで、小さな美術館に引けを取らないくらい広い。その地下1階から2階まで3フロアーを使って1976年の作品から最新作まで浜田のいわば回顧展が開かれている。


 浜田はひたすら紙に鉛筆で黒く塗り重ねたり、板を無数に彫刻刀で彫り続けたり、短い筆触の線を画面一杯に描いたりと、ミニマル・アートに近い仕事を続けてきた。だが浜田の仕事の大きな特徴は手の痕跡にあるだろう。極めて長時間を費やして個々の作品を作っている。その膨大な手仕事に費やした時間の痕跡が浜田の作品を成立させている。

 一見ミニマル・アートに近い造形ながら、浜田の費やした時間が作品に堆積している。浜田の作品の独自性がそこにあるのだろう。

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浜田浄展「続くあしおと」

2023年2月25日(土)-3月25日(土)

11:00-19:00(日曜・月曜休廊、祝日開廊)

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√k(ルートk)コンテンポラリー

東京都新宿区南町6

電話03-6280-8808

https://root-k.jp/

都営地下鉄大江戸線牛込神楽坂駅」」A2出口から徒歩5分

東京メトロ東西線神楽坂駅」神楽坂口から徒歩12分

東京メトロ飯田橋駅」B3出口から徒歩10分

 

 

コバヤシ画廊の藤森哲展を見る

 東京銀座のコバヤシ画廊で藤森哲展「不在の実在」が開かれている(3月25日まで)。藤森は1986年横浜市生まれ、2011年に筑波大学大学院人間総合科学研究科博士前期課程芸術専攻洋画領域を修了している。2016年JINENギャラリーで初個展、コバヤシ画廊では5回目の個展となる。2022年岡本太郎現代芸術展(TARO賞)特別賞受賞。


 画廊に入ると正面の大きな作品に圧倒される。天地285.0cm、左右555.0cmもある。藤森は明治維新廃仏毀釈により破壊された仏像が、首を失ったまま保存され、信仰の対象になっていることに注目し、その形を作品の中に取り込んでダイナミックな造形を完成させている。さらに宇宙船のフォルムをも取り込んで、過去と未来を強引な造形力で合体させている。その激しい動きは小品でも変わらない。とてもエネルギッシュな作品だ。

 激しくエネルギッシュな作品を画廊で体験してみてほしい。

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藤森哲展「不在の実在」

2023年3月20日(月)-3月25日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)3月21日開廊

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東京都中央区銀座3-8-12 ヤマトビルB1

電話03-3561-0515

http://www.gallerykobayashi.jp/