筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』を読む

 筒井清忠編『昭和史講義【戦後文化篇】(下)』(ちくま新書)を読む。本書戦後文化篇下巻は、映画などを主体に音楽やマンガやテレビなどを扱っている。いままで映画は監督を中心に見ていくという視点が多かったが、本書は映画会社から映画史を見ていくというユニークな視点を採っている。

 19講から成っているが、その目次を拾うと、「戦後の木下恵介と戦争」、「『君の名は』と松竹メロドラマ」、「成瀬巳喜男」、「ゴジラ映画」、「サラリーマンと若大将」、「新東宝の大衆性・右翼性・未来性」(これはもちろん片山杜秀執筆)、「『叛乱』-日本における政治歴史映画の特質』、「三隅研次大映時代劇」、「日活青春映画」、「東映時代劇」、「任侠映画興亡史」、「幕末維新映画」、「菊田一夫」、「少年少女ヒーローとヒロイン」、「東映動画スタジオジブリ」、「長谷川町子手塚治虫と戦後の漫画観」、「朝ドラ」、「被爆者・伊福部昭と水爆大怪獣・ゴジラ」(伊福部を語るのは片山杜秀)、というラインナップ。

 片山杜秀は近代日本政治学者であり現代音楽評論家だから、新東宝の右翼性も伊福部昭も片山抜きには成り立たない。

 成瀬巳喜男は松竹に在籍していたが、城戸四郎に「小津安二郎は二人要らない」と軽んじられ、P.C.L.(後の東宝映画)に移籍した。

 新東宝を語るために片山杜秀大江健三郎の「セヴンティーン」から始める。「セヴンティーン」も右翼少年の物語だった。

 少年少女ヒーローとヒロインで、『赤胴鈴之助』~『月光仮面』~『隠密剣士』の流れが語られる私も。小中学生の頃夢中で見ていたのだった。ほかに『怪傑ハリマオ』というのがあった。月光仮面は今から見るとちゃちなオートバイに乗っていた。

 手塚治虫について、夏目房之介は「手塚の発言には問題が多く(中略)、手塚の発言を検証なしに使うのはきわめて危険である」と厳しい。「とはいえ手塚の戦後物語漫画への影響力は圧倒的ではある」とも言っている。

 いずれの論考も他にあまり似たものを読んだことがなく、新鮮で興味深かった。上巻も含めて優れた昭和史講義だった。

 

 

 

ギャラリーアビアントの「淑女展」を見る

 東京吾妻橋のギャラリーアビアントで「淑女展」が開かれている。知人が何人か出品している。

 古茂田杏子は両親とも画家で、父が古茂田守介、母が美津子、2012年に目黒区立美術館で古茂田守介+古茂田美津子展が開かれている。古茂田はいつも昭和的抒情の世界・歌謡曲をテーマに作品を作っている。

サーカスの唄

私は街の子

神田川

瀬戸の花嫁


 石垣むつみは東京生まれ、文化学院デザイン科・芸術科を修了している。1993年に目黒のギャラリークラマーで個展を行い、その後ギャラリー砂翁や空想ガレリア、ギャラリーYORI、ギャラリー紡、ギャラリーf分の1、ギャラリーテムズ、ガルリSOLなどで個展を開いている。



 森敬子はギャラリー汲美で個展を続けてきた。素朴な味わいの作品を描いている。近いうちに代々木上原のギャラリーYORIで個展を開くという。



 江波戸郭子は銀座の巷房で発表を続けている。



 ギャラリーアビアントは浅草駅から吾妻橋を渡ってすぐのアサヒビール本社ビルの近くにある。

     ・

「淑女展」

2022年9月12日(月)-9月21日(水)

11:00-19:00(日曜日・最終日17:00まで)

     ・

ギャラリーアビアント

 

東京都墨田区吾妻橋1-23-30-101

電話03-3621-0278

http://abientot.main.jp/

※浅草駅から吾妻橋を渡って徒歩4分

 

 

 

かわかみ画廊の沓澤貴子展を見る

 東京北青山のかわかみ画廊で沓澤貴子×里佳孝展が開かれている(9月24日まで)。沓澤はタブロー、里は木彫を展示している。ここでは沓澤を紹介する。沓澤は静岡県生まれ、1996年に武蔵野美術大学造形学部油絵学科を卒業し、1998年に同大学大学院油絵コースを修了している。昨年は上野の櫻木画廊で個展をしていた。

 沓澤の言葉、

 

タブローの描き始め、完成する瞬間に向かって中ぶらりんに放り出される真空の時間。昔は未知への恐れや不安でいっぱいだったけれど、最近はその不安定さに一筋の光を見いだすようになりました。

そうであったであろう、そのままの画面に近づけるよう、できる限りの注意を払っていきたいです。

今夏のアトリエでの営みを"緑色"にゆだねました。

 

(額のガラスが反射してしまった)



 今回のかわかみ画廊は小さな画廊なので、小品を展示しているが、小品もなかなか良かった。ここ何年か緑色の作品がとても良い。今回は白い作品に挑戦しているようだ。

 かわかみ画廊は青山通の外苑前駅表参道駅のやや外苑前寄り、マクドナルドの隣りの自転車屋(Cycle Olympic)の間の通路を直進した奥左手にある。

     ・

沓澤貴子×里佳孝展

2022年9月10日(土)-9月24日(土)

13:00-19:00(最終日18:00まで)月曜休廊

     ・

かわかみ画廊

東京都港区北青山3-3-7 第一青山ビル1F

電話03-6447-2328

http://galeriekawakami.com

東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口より徒歩3分

東京メトロ銀座線・半蔵門線・千代田線表参道駅A3出口より徒歩5分

 

ギャラリーSAOH & TOMOSの梅田恭子展「砂に水」を見る

 東京神宮前のギャラリーSAOH & TOMOSで梅田恭子展「砂に水」が開かれている(9月24日まで)。梅田は東京都生まれ、1994 年 多摩美術大学美術学部デザイン科グラフィックデザイン専攻を卒業、1996 年 同大学大学院 美術研究科デザイン専攻を修了している。1994年に東京銀座のギャラリー中沢で2人展、1995年に銀座のOギャラリーで初個展を開き、以来、毎年各地のギャラリーで個展を開いている。ただ、コロナ禍もあって、東京では3年ぶりになる。

「せきとめる」

「水が跳ねる」

「吐出口」

「水の中」

「砂に水」

「彷徨えるひと」

油彩「恥」



 今回は版画作品のほかに1階に油彩が1点展示されている。2階の主展示場の版画はいつもにもまして小さい。梅田の作品は静かで繊細なものだ。例えて言えば、とても小さな声で語っているのだが、繊細な表現のなかに微妙で豊かな表情が認められる。小さな声だが強い主張がされている。

 タイトルが、「せきとめる」「水が跳ねる」「吐出口」「水の中」「砂に水」「彷徨えるひと」などとなっている。油彩のタイトルは「恥」となっていたが、DM葉書では「あゝ僕が苦労して建てたのに風に晒され干ばつで崩れ同胞に踏まれ雨に流されていった」となっている。これらのタイトルからも梅田の繊細さが伝わってくる。

 油彩は珍しかったがとても良かった。

     ・

梅田恭子展「砂に水」

2022年9月12日(月)―9月24日(土)

11:00-18:00(最終日17:00まで)

     ・

ギャラリーSAOH & TOMOS

東京都渋谷区神宮前3-5-10

電話03-6384-5107

http://www.saohtomos.com/index.htm

 

 

ギャルリー東京ユマニテbisの中井川由季展を見る

 東京京橋のギャルリー東京ユマニテbisで中井川由季展「そして地中へ」が開かれている(10月1日まで)。中井川は1960年茨城県生まれ、1984年に多摩美術大学絵画科を卒業し、1986年に同大学大学院美術研究科修士課程を修了している。

 1990年にポルトガルより招聘されて滞在制作、2002年に滋賀県陶芸の森で招聘講師として滞在制作、2004年に韓国より招聘されて滞在制作を行っている。

 主な個展としては、1991年からマスダスタジオ、ギャラリー小柳、山口県立萩美術館・浦上記念堂など。ここユマニテでは2019年から今回が3回目となる。


 画廊の中央に大きな立体作品が展示されている。球体の陶が6つ積み重ねられている。よく見れば台座の下にも1つある。高さが317cm、3メートルを超えている。天井の高いこの空間でないと展示できなかった作品だ。作家も、この作品は当初、野外の特定の場所を想定して作ったと言っている。2年の時が経ちその実現が難しくなりホワイトキューブに場を求めたと。

 そうかコロナでなかったら、野外展示だったのか。この造形なら野外で存在感を示しつつ環境に溶けこんだ展示になったに違いない。

     ・

中井川由季展「そして地中へ」

2022年9月12日(月)―10月1日(土)

10:30-18:30(日曜祝日休廊)

     ・

ギャルリー東京ユマニテbis

東京都中央区京橋3-5-3 京栄ビルB1F

電話03-3562-1305

https://g-tokyohumanite.com