ギャラリイKの内海信彦展を見る

 東京京橋のギャラリイKで内海信彦展が開かれている(10月23日まで)。内海は1953年生まれ、東京都出身。1974年慶應義塾大学法学部政治学科中退。1975年美学校中村宏油彩画工房修了。1981年多摩美術大学絵画科油画専攻コース卒業。今回で個展は109回目になるという。

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 今回の内海の作品は直径2メートルほどの円形キャンバスだ。オールオーバーの抽象表現主義的作品でありながら、何か禍々しいような印象はなぜだろう。作品の大きさと、渦巻くような画面からあたかも龍が飛び出してくるのではないかとの緊迫感が感じられる。

 内海の話をじっくり聞いたことがないけれど、SNSで発せられるその言葉は激しいものだ。おそらく内海の内面の烈しさと作品の発する烈しさは見合っているのだろう。近頃ここまで内面の烈しさを作品に表現している作家は少ないのではないか。

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内海信彦展

2021年10月11日(月)〜10月23日(土)

11:30〜18:30(土曜日〜17:00)日曜休み

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ギャラリイK

東京都中央区京橋 3-9-7 京橋ポイントビル4F

電話03-3563-4578

http://galleryk.la.coocan.jp

 

 

 

S+artsのさとう陽子展を見る

 東京六本木のS+artsでさとう陽子展「―じげん―」が開かれている(10月17日まで)。さとうは東京生まれ。1981年に日本大学芸術学部美術学科を卒業している。1986年から毎年様々なギャラリーで個展を開いて活発に活動している。

 ギャラリーのホームページから、

 

本展では、視覚だけでなく、音、味、匂い、触感などの感覚も使って絵を描くことで「いまここに生きている画面になるようにする」と語るさとうの絵画表現としての新作を発表いたします。キャンバスに油彩、パステル、鉛筆、メディウム等を重ねて厚塗りの強弱をつける方法と、脱力した[穴]や[破れ]のような減算の要素を画面に入れる方法が合わさることで、独自の絵画空間の広がりを表現する彼女の作品は、観る者の捉え方により様々に表情が変化します。

 

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 大作が2点と小品が20点以上展示されていただろうか。パネルの裏面を使ったものもある。以前も書いたことだが、ゲシュタルトでいう図と地をさとうの絵画に当てはめてみると、図と地で成り立っているように見えて、その地がさらに下位の地に対して図となっているように見える。地の複層性というか図の複層性というか、今風に言えばレイヤー構造をなしていると言ってもいいかもしれない。複雑な構造とマチエールの特異さがさとうの特徴だろう。中心がないことでどこかオールオーバーにも近く、またそれを否定しているようにも見える。さとうの絵画は安易な定義を拒んでいる。それが魅力とも言えるのではないか。

 なお、s+artsは以前Shonandai MYギャラリーといっていたのが改名したもの。オーナーが親から娘たちに移ったが場所は変わらない。

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さとう陽子展「―じげん―」

2021年10月8日(金)-10月17日(日)

12:00-19:00(最終日17:00まで)会期中無休

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s+arts

東京都港区六本木7-6-5 六本木栄ビル3階

電話03-3403-0103

http://www.splusarts.com

都営大江戸線六本木駅から徒歩3分

東京メトロ日比谷線六本木駅から徒歩5分

東京メトロ千代田線乃木坂駅から徒歩5分

 

Oギャラリーの吉岡敦夫彫刻展を見る

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DM葉書

 東京銀座のOギャラリーで吉岡敦夫彫刻展が開かれている(10月17日まで)。吉岡は1958年愛媛県生まれ、1980~1983年美学校にて彫刻を学ぶ。1986年に愛媛県のプランタンギャラリーで初個展、1987~1993年に早稲田芸術学校で建築を学ぶ。2000年に新体操を見て人体の美しさを知り人物像の木彫を行うが、7年ほど前より抽象彫刻を始める。今回が2回目の個展となる。

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新体操をイメージした古い作品


 吉岡は潔いほどの簡潔な形の木彫作品を作っている。古い仏像や唐招提寺などの屋根が作る曲線が好きで、その曲線を作品に取り込んでいるという。また石ころのような丸い作品も面白かった。

 7年前まで作っていたという新体操を模した作品が1体展示されていた。作品ファイルを見ると、新体操の選手をモデルにしたという彫刻も素晴らしかった。またファイルにあったドローイングも良かった。60歳を超えてから初めての東京での個展になる。これからはもっと頻繁に個展を開いてほしい。

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吉岡敦夫彫刻展

2021年10月11日(月)―10月17日(日)

12:00-20:00(日曜日11:00-16:00)

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Oギャラリー

東京都中央区銀座1-4-9 第一田村ビル3F

電話03-3567-7772

http://www4.big.or.jp/~ogallery/

 

 

篠原有司男『前衛の道』を読む

 篠原有司男『前衛の道』を読む。篠原がネオダダの頃の活動をつづったもの。やんちゃな若者ができるだけ目立つような作品を作っている。読売アンデパンダン展に出品し、瀧口修造にそこそこ評価され、「アメリカ巡回現代日本美術展」の選抜責任者として来日したニューヨークの近代美術館キュレーター、ウィリアム・リーバーマンには高く評価された。

 しかし明確な思想も方法も感じられない篠原の作品は、首がぐるぐる回るマルセル・デュシャンのはりぼて像など、造形的にもとても評価することができない。パネルに貼ったケント紙を絵具を付けたグローブで殴るボクシング絵画も、様々なイラストも品がなく、評価した評論家の心情がわからない。

 先に読んだ赤瀬川原平の『反芸術アンパン』がネオダダに関する肯定的な優れた記録だとすれば、本書は否定的な記録だと断ぜざるを得ない。まあ、赤瀬川は後に芥川賞を受賞するほどの知性派だから、比べたら残酷かもしれない。

 本書には奥付が2つある。一つは、発行:1968年6月20日、発行所:美術出版社となっており、もう一つはタイトルに(完全復刻版)とあって、発行:2006年10月1日、発行:ギューチャン・エクスプロージョン! プロジェクト実行委員会、発売:美術出版社となっている。ギューチャンというのは篠原有司男のニックネームだ。

 さらに小さな文字で「なお、本書は原書版『前衛の道』実物を版下として製作したものです」と書かれている。

 すると、美術出版社が1968年に発行した原著はすでに版が残ってなく、改めて文字を組むのではなく原著を写真製版して制作したのだろう。しかし、ギューチャン・エクスプロージョン! プロジェクト実行委員会には当然取次に口座がなく、美術出版社が発売元になっているのだろうと思われる。

 

 

前衛の道 (GYUCHANG EXPLOSION!PROJECT)

前衛の道 (GYUCHANG EXPLOSION!PROJECT)

  • 作者:篠原 有司男
  • ギュウチャンエクスプロージョン!プロジェクト実行委員会
Amazon

 

 

 

ギャラリーJyの染谷玲子展を見る

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DM葉書



 東京北青山のギャラリーJyで染谷玲子展「キノムクママ」が開かれている(10月24日まで)。私の好きな写真家だ。いつも若い女性のポートレートフィルムカメラで撮っているが、今回は自分をモデルに撮影している。相変わらずフィルムカメラで撮影しているので、撮影結果は現像するまで分らない。結構ストレスの多い撮影ではないかと心配する。

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 染谷は繁華街などで若い女性に声をかけてあまり人通りのない街中で撮影してきた。また自分をモデルにヌード撮影も試みている。今回はスタジオ撮影風に自分を撮っている。新しいことに挑戦し続ける染谷の姿勢が好ましい。

 染谷とはいつも個展のとき面と向かって話していた。今回作品に横顔が写っていて、彼女、こんな顎の形をしていたんだと、見慣れない女性を見たような印象で、そのことも新鮮だった。

 染谷はニコンの35ミリカメラを使って撮影し、現像もプリントも自分で行っている。写真家の森岡純はデジタルに移行し、渡辺兼人は良い印画紙がないと言って中判フィルムで撮影したものを小さな印画紙にプリントしている。染谷の意欲的な仕事を見守っていきたい。

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染谷玲子展「キノムクママ」

2021年10月5日(火)―10月24日(日)

11:00-17:00、月曜休廊

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ギャラリー Jy

東京都港区北青山2-12-23 Uビル1F

電話03-3479-6422

https://www.galleryjy.com

東京メトロ銀座線外苑前駅3番出口から徒歩2分、ジ アオヤマ グランドホテルの裏手