酒村ゆっけ、『無職、ときどきハイボール』を読む

 酒村ゆっけ、『無職、ときどきハイボール』(ダイヤモンド社)を読む。以前、東大教授で、宇宙論・地球系外惑星の専門家須藤靖が朝日新聞の書評欄に、酒村ゆっけ、『無職、ときどきハイボール』(ダイヤモンド社)を紹介していた(4月10日付)。

 須藤はテレビ番組「孤独のグルメ」が好きだが、酒抜きである点がやや残念と書き、本書はその酒びたり女性バージョンだと紹介する。「酒村ゆっけ、」の名前について、「そもそも著者名からして怪しい(末尾の読点に至っては全く理解不能)」と。

 

 吉野家サイゼリアびっくりドンキーくら寿司富士そば野郎ラーメンまでもが、彼女にかかると魅力たっぷりの超チープ酒場に変身。書かれた通りの順番で同じメニューを頼んで飲んだくれてしまいたい衝動に駆られるほどだ。

 さらに飲む量と食べる量が尋常ではない。思わず検索して見つけた動画の中の著者は、私の勝手な想像と違い過ぎ、のけぞってしまった。皆さんもご覧あれ!

 

  その動画は確かに面白く私も多少はまってしまった。そして本書を読むと、驚いた。動画で語っていたことをそのまま活字に置き換えているような内容なのだ。本書の出版社がダイヤモンド社、経済や経営に関する一流出版社だ。You Tuberとして人気のある酒村ゆっけ、ならそこそこ売れると踏んだのだろうか。彼女は8月にも角川から小説を出版するという。私にはとてもじゃないが理解不能の世界だ。

 

 

 

 

藍画廊の衣真一郎展を見る

 東京銀座の藍画廊で衣真一郎展が開かれている(8月7日まで)。本展は銀座・京橋を中心とする現代美術の画廊が共同主催する「画廊からの発言 新世代への視点2021」のひとつで、今回藍画廊は衣真一郎を選んでいる。

 衣は1987年群馬県生まれ、2013年に東京造形大学造形学部絵画専攻領域を卒業している。2014年から2015年にパリ国立高等美術学校交換留学。2016年東京藝術大学大学院美術研究科修士課程絵画専攻領域修了。2014年に現代HEIGHTSギャラリーDen & ST.で初個展。その後東京ワンダーサイト東京オペラシティアートギャラリーなどで個展を行っている。

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 衣は主に風景を描いている。しかしその風景はありふれた描き方ではなく、鳥観図的な見方と遠景を組み合わせている。しばしば画面に古墳が描かれる。道路が大きく俯瞰して描かれるのも特徴だ。この道路は何だろう。道路の両脇には畑らしきものが続いている。農夫が働いている作品もある。わが師山本弘も画面の中に道路を俯瞰的に描いていた。二人に共通するものは何だろう。衣に尋ねてみたい。

 畑などの描き方に造形大学の先輩で講師をしていた堀由樹子の作品を連想した。影響はあるのだろうか。

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衣真一郎展「山と道」

2021年7月26日(月)―8月7日(土)

11:30-19:00(最終日18:00まで)日曜休廊

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藍画廊

東京都中央区銀座1-5-2 西勢ビル2階

電話03-3567-8777

http://igallery.sakura.ne.jp/

 

クロスビューアーツの桑原理早を見る

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  東京京橋のクロスビューアーツで桑原理早・原裕子展が開かれている(8月7日まで)。原は陶で面白い形を作っていて興味深いが、今回は桑原を紹介する。

 桑原は1986年、東京都出身。2011年に武蔵野美術大学造形学部日本画学科を卒業し、2013年同大学大学院造形研究科日本画コースを修了している。2013年アートスペース羅針盤で初個展、2014年と2018年にギャラリー&スペースしあんで個展を開いている。昨年はギャラリーなつかでも個展を行った。また各地のグループ展にも何度も参加している。

 ギャラリーのHPから作家の言葉、

 

一つの側面では決定できない、人という存在をテーマに制作しています。

線の重なりは、時間の重なりも表しており、画面上に一人の人物を複数描き重ねながら、人物像を露わにしています。

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ギャラリーのHPから借用

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ギャラリーのHPから借用

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  「画面上に一人の人物を複数描き重ねながら、人物像を露わにしています」とある。その言葉通りの造形がとても魅力的だ。位相をずらし重ねて一人の個性をあぶりだしている。そのことが造形的な新しい世界を作り出している。

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桑原理早・原裕子展

2021年7月29日7月26日(月)―8月7日(土)

11:30-19:00(最終日17:00まで)日曜休廊

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クロスビューアーツ

東京都中央区京橋3-4-2 フォーチュンビル1F

電話03-6265-1889

http://gnatsuka.com/

※クロスビューアーツはギャラリーなつか併設の小スペース(入口は共通)

 

 

ギャラリー川船で「夏期入札展示会」が始まった

 東京京橋のギャラリー川船で「夏期入札展示会」が始まった(7月31日まで)。

 入札の方式は「二枚札方式」、これは入札カードに上値(上限)と下値(下限)の二つの価格を書いて入札するもの。他に入札者のない場合は下値で落札する。上値が同額の場合には下値の高い入札者が上値で落札する。上値と下値の間に他の入札者が入った場合には、上値の高い入札者が上値で落札する。上値、下値が同額の場合は抽選となる。

 落札価格に別途消費税がプラスされる。

 なお、最低価格が設定されているので、その価格から入札することになる。入札の最小単位は100円となっている。

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杉全直

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櫻井孝身

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堀内正和


 安いものは3,000円から、高いものは吉原治良の350万円から、長谷川利行の180万円からくらい。気になったのが、池田龍雄エッチングが15,000円から、杉全直の30Fの油彩が30万円から、カジ・ギャスディンの水彩が7,000円から、櫻井孝身の油彩が5万円から、堀内正和のエッチングが18,000円からなどとなっている。

 7月31日土曜日の午後1時に入札締め切り、同2時より開札となっている。

 ギャラリー川船のホームページには170点の作品リストと画像、最低価格が載っている。

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「夏期入札展示会」

2021年7月27日(月)-7月31日(土)

11:00-17:00(最終日13時まで)

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ギャラリー川船

東京都中央区京橋3-3-4 フジビルB1F

電話03-3245-8600

http://www.kawafune.jp/ 

 

 

吉行淳之介『特別恐怖対談』を読む

 吉行淳之介『特別恐怖対談』(新潮文庫)を読む。12年間にわたって『小説新潮』誌上で行われた40回の「恐怖対談」シリーズの最終巻。面白かったエピソードをいくつか抜き書きする。

 

 40回の対談で初めてという女性の瀬戸内寂聴との対談は「女の髪の毛について篇」。

吉行(淳之介)  ……男の性欲っていうのは、すうっと抜けて行って痛痒を感じない。性欲の話に決めちゃいけないけれど(笑)。女性の場合はそこがふっ切れないらしいね。すうっと抜けて、ああなくなって行くなあというような気楽なものではないみたいですね。

瀬戸内(寂聴)  そうみたいですよ。うちによく身上相談の手紙が来るんですけれど、それを見ますと、いま57、8とか62、3の人の悩みって凄いですよ。だから、これから大変ですね。ますますみんな若くなりますし。

 

瀬戸内  ええ。まず髪の毛が多いっていうことは、絶対色情が強いでしょう。密生した人は強くなかったですか。吉行さんの経験では。

吉行  みんな密生していたような気がする(笑)。

瀬戸内  じゃあそういう人ばっかり選ぶんだ(笑)。

  

瀬戸内  私はとても好きな地獄絵があるの。

吉行  ……。

瀬戸内  大きな樹があって、上に綺麗なお姫様がいて、男はお姫様に惹かれて下から登って行くのね。そしたら木の葉が全部剣になって下に向いて、男はズタズタになるの。それでも登って行くわけ。やっと捕まえたと思ったら、お姫様はさっと下へ落ちてしまう。男が降り始めると、今度は剣は全部上を向くのね。ズタズタになってやっと下まで降りて来たらお姫様はまた上に行ってしまう。その地獄が私は好きなの。いいでしょ、これ。

 

  害虫駆除剤のひとつに、性フェロモン剤がある。蛾の仲間でメスが成熟すると性フェロモンを分泌する種類がある。オスはその匂いを頼りにメスを探し当て交尾をする。その習性を利用して、メスの出す性フェロモンを化学的に合成し、その性フェロモン剤を害虫が集まりやすい畑へ設置する。するとオスは合成された性フェロモン剤に撹乱されて、近くにメスがいると思い込み、必死に狂ったように探し回る。しかしついに本物のメスにたどり着けなくて、交尾が行われないで死んでしまう。結果、産卵に至らないので害虫の被害が防げるという駆除法だ。

 瀬戸内の紹介する地獄絵と少し似ているのではないか。

 村松友視との対談「貧乏性について篇」。連れ込み旅館の話から赤線地帯での経験。

 

吉行  ……ぼくの場合は、赤線地帯で或る期間勉強したから急ぐ癖がついているのね。1時間というのは60分じゃなくて45分、馴染みになって50分まで許される。ショートタイムは30分だけれど、実は靴下を脱いでから履くまで20分でカタをつけないと怒られた。滝田ゆうにその話をしたら、なぜ靴下を脱ぐって言われたけれど(笑)。

村松(友視)  念の為にうかがうと、なぜなんです。

吉行  靴下履いてるとどうも感じが出なくてね。それと、やっぱり自分を見る眼というものがあるから、なにも靴下だけ履いてヤルこともないだろうっていう……。

村松  腕時計ははずすんですか。

吉行  腕時計は時間を調べるために必要なんだ(笑)。

 

 他に、星新一黒鉄ヒロシ吉村昭山下洋輔和田誠沢木耕太郎結城昌治遠藤周作と対談している。

 雑誌の編集者である横山正治によると、速記録を「整理し、3分の1から4分の1の分量に縮め、吉行さんのチェックを受けてゲラにする。ゲストにゲラを見ていただき、最後に和田誠さんのイラストレーションが出来あがって、「恐怖対談」1回分は完成である」という。