千葉市美術館の宮島達男展を見る

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 千葉市美術館で宮島達男展「クロニクル1995-2020」が開かれている(12月13日まで)。宮島は1957年、東京生まれ。1984年に東京藝術大学を卒業し、1986年に同大学大学院を修了している。美術館のホームページより、

宮島達男は、LED(発光ダイオード)のデジタル・カウンターを使用した作品で高く評価され、世界で活躍する現代美術作家です。1980年代より宮島は、「それは変化し続ける」「それはあらゆるものと関係を結ぶ」「それは永遠に続く」という3つのコンセプトに基づき、これまで30ヵ国250ヶ所以上で作品を発表してきました。作品のモチーフであるデジタル数字は命の輝きをあらわし、0が表示されず1から9の変化を永遠に繰り返すことで、人間にとって普遍的な問題である「生」と「死」の循環を、見る者に想像させます。

 宮島の個展ならLEDのデジタル・カウンターが明滅している作品がたくさん並んでいるのだろうと予測していたが、そんな単純なものではなかった。様々な人種の身体にボディ・ペインティングをしたり、参加者に死ぬ日付を入力するよう呼びかける作品、そして長崎で被爆した柿の木を再生させて柿の木2世を作り日本をはじめ世界各地に植えていく「時の再生・柿の木プロジェクト」など、多彩な表現に驚いた。

 

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上の作品の部分

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 宮島が好きだという作家たちの作品とのコラボレーションがあった。宮島が選んだ5人は、河原温中西夏之、菅井汲、リ・ウーファン、杉本博司だった。中西を除いて宮島さん、あまり良い趣味とは言えないな、というのが秘かな私の感想。ジョン・ケージの楽譜やレコード盤を加工した作品は興味深かった。

 一番奥の部屋に「地の天」と題された大きなインスタレーションが展示されている。直径10m近い大きな円形の枠が作られ、ほとんど底が見えないその床部分にまばらなLEDのデジタル数字が明滅している。それは地でありながら天体の星のようでもある。脇に少し高い階段が設置されていて、そこから全体を見渡すようになっている。明滅する数字はあるいは天の視点から見た地上のはかない人間の命なのだろうか。宮島が観客に神の視点を垣間見させてくれているようでもある。この作品は千葉市美術館の収蔵品だった。さすが!

 数年前、ドイツ文化センターで宮島と栃木県立美術館学芸員山本和弘の対談を聞いたことがあった。テーマはヨーゼフ・ボイスだった。ボイスが来日した折、東京芸大で講演をした。宮島が学生を代表してボイスに質問をした。前日仲間たちが同級生の長谷川祐子の下宿に集まって徹夜で質問を考えた。だがボイスはそれらの質問にあまり興味を示さなかった。ボイスは社会彫刻というような話をした。7000本の樫の木を植えるプロジェクトなど。しかし当時宮島たちはボイスの考えていることがあまり分からなかったという。それが分かるようになったのはやっと10年ほど前です、と言った。それが数年前の対談だった。

 宮島の作品に人種や命、柿の木プロジェクトという死と再生のテーマや社会問題がが色濃くにじんでいるのはボイスの強い影響だろう。美術は造形美だけで良しとする脳天気な思考は宮島の個展を見ればそれがいかにつまらぬ考えか思い知らされるだろう。

(掲載した作品は撮影が許可されているものばかりなので、宮島の多様性を表せていない)

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宮島達男展「クロニクル1995-2020」

2020年9月19日(土)-12月13日(日)

10:00-18:00(金・土は20:00まで)10/5、10/19、11/2、11/16、12/7休館

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千葉市美術館

千葉市中央区中央3-10-8

電話043-221-2311

https://www.ccma-net.jp/

 

 

スカイ・ザ・バスハウスの森万里子展「Central」を見る

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 東京谷中のスカイ・ザ・バスハウスで森万里子展「Central」が開かれている(10月17日まで)。森万里子は森ビル創業者の孫娘、といってももう50歳くらいになるらしい。1997年のヴェネチア・ビエンナーレに出品し、同じ年ギャラリー小柳で個展を行った。宇宙服みたいなコスチュームに身を包み、秋葉原あたりで手に水晶玉を浮かしたような動画を展示していた。2002年には東京都現代美術館で個展を開き、神社を作って展示していた。さて、今回はどんな作品を見せてくれるのか。

 画廊には大きなアクリルの立体作品が展示されている。斜めから見ると厚いアクリルの板が数枚重ねられている。何か月か前にNHKテレビで見た水族館用のアクリル板を作っている日本の会社を思い出した。数十センチもの厚さのアクリル板を作る技術を持っていて、世界中の水族館から注文を受けているという。森もこのアクリル板を作っている会社に発注しているようだ。

 アクリルの立体は「分光特性により特定の波長の光を分離し、色彩のスペクトルを強調して」いる。それを「現代の神性を司る光のモニュメントとして現されて」いるとしている。

 森は以前からいわゆるスピリチュアルなものへの傾倒が見られたが、今回もそんなことのようだ。作品は工場へ発注したのだろうが、こんな複雑な形の設計図をどうやって描いたのだろう。それが一番気になった。

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森万里子展「Central」

2020年9月11日(金)―10月17日(土)

12:00-18:00(日・月・祝日休廊)

※事前予約制

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スカイ・ザ・バスハウスSCAI THE BATHHOUSE

東京都台東区谷中6-1-23 柏湯跡

電話03-3821-1144

https://www.scaithebathhouse.com/

 

 

ギャラリーブロッケンの柴田美智子個展「緊急避難」を見る

 東京武蔵小金井のギャラリーブロッケンで柴田美智子個展「緊急避難」が開かれている(9月27日まで)。柴田は1955年東京都江東区生まれ、1980年〜83年に美学校で菊畑茂久馬に師事している。1994年日本橋好文画廊で初個展、以来ギャラリーフレスカ、Keyギャラリー、スパンアートギャラリー、新宿眼科画廊、ギャラリー・ブロッケン、SPCギャラリー、一昨年は宇フォーラムで個展を行ってきた。

 ギャラリーの壁に柴田の言葉が貼られていた。

記憶が途切れ途切れで、はっきりとは辿れないような幼い頃に/殺されかけたことがあり、恐怖にかられて/体を真っ二つに切り分けてしまった。

どちらか片方だけでも生き延びられるようにと思ったのだ。

二つに切断された肉体は/痩せぎすの双子のようになるものかと思ったのに/片方は人に、片方は猿になった。

猿部分は壁を突き抜けて逃げ去り/人部分はそのまま捕まってしまった。

  この文章を読んで展示を見れば、展示はほとんどこれを表現したものだった。ドローイングが1点あって、女性が猿と自分を糸で縫っている。これは何? と訊くと、もう大人になったので元には戻れないだろうと。

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猿と人と真っ二つになっている

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 でも殺されかけて体を真っ二つに切り分けたって何だろう。幼い子供はほとんど野生の生物で、大人はそれを人の型にはめていく。柴田は幼い頃にそれに逆らった記憶があるのだろうか。ボーヴォワールの「女は女に生まれるのではない、女に作られるのだ」も、ある意味それと相似なのではないか。

 子供や猿が座っている机や椅子は小学校で実際に使われていたもの。横たわっている下に敷かれているのは、アスファルトを撮影してそれを布にプリントしたものだという。

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柴田美智子個展「緊急避難」

2020年9月19日(土)-9月27日(日)

12:00-19:00(最終日17:00まで)

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ギャラリーブロッケン

東京都小金井市本町3-4-35

電話042-381-2723

http://gallerybrocken.com/

JR中央線武蔵小金井駅北口小金井街道を直進し、本町2丁目の交差点を右折、信号を過ぎ、右手の本町公民館の前を左折して進むと左手にギャラリーがある

 

 

Stepsギャラリーの十河雅典展「2020・77歳の自我像」を見る

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  東京銀座のStepsギャラリーで十河雅典展「2020・77歳の自我像」が開かれている(10月3日まで)。十河は1943年東京生まれ。1969年に東京芸術大学を卒業している。タイトルが「77歳の自我像」だが、若い頃からの自我像、15歳、19歳、32歳、57歳、65歳や現在の77歳の自我像まで並んでいる。

 画廊主の吉岡がブログに書いている。

十河作品の特徴の一つにユーモアというものがある。諧謔、皮肉といった毒のある笑いといったらいいのだろうか。作品のあちこちに滑稽駄洒落の余裕がある。しかし、その奥には切羽詰った思想と情熱が垣間見えるのであるが、今回の「自我像」にはユーモアが見られない。

http://stepsgallery.cocolog-nifty.com/

 以前十河について私も次のように書いた。「十河の作品は篠原有司男を思わせる一面があるものの、篠原より品があり洗練されているように思う」と。

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77歳の自我像

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37歳の自我像

 黄色い作品は画面いっぱいに植物を貼り付けている。そのような作品は十河独特のものではないが、洗練されていて完成度が高く、優れた作品だと思う。

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十河雅典展「2020・77歳の自我像」

2020年9月23日(水)-10月3日(土)

12:00-19:00(土曜日は17:00まで)日曜休廊

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Steps Gallery(ステップス・ギャラリー)

東京都中央区銀座4-4-13 琉映ビル5F

電話 03-6228-6195

http://www.stepsgallery.org

東京メトロ銀座駅B1・B2出口より徒歩1分

 

 

斎藤美奈子の「世の中ラボ」126回を紹介する

 筑摩書房のPR誌『ちくま』10月号に斎藤美奈子の連載エッセイ「世の中ラボ」の126回目が掲載されている。タイトルが「「安倍辞任」でも気分が晴れない理由(わけ)」、その一部を紹介する。

 

 まず安倍政権とは何だったのか思い出してみよう。

 適菜収『国賊論』のサブタイトルは「安倍晋三と仲間たち」。こんな表題の本だけあり、適菜の安倍批判は激烈である。

安倍晋三は、国を乱し、世に害を与えてきた。文字どおり、定義どおりの国賊である〉と彼は書きだす。〈安保法制騒動では憲法破壊に手を染め、北方領土の主権を棚上げし、不平等条約締結に邁進。国のかたちを変えてしまう移民政策を嘘とデマで押し通し、森友事件における財務省の公文書改竄、南スーダンPKOにおける防衛省の日報隠蔽、裁量労働制における厚生労働省のデータ捏造など、一連の「安倍事件」で国の信頼性を完全に破壊した。/安倍は、水道事業の民営化や放送局の外資規制の撤廃をもくろみ、皇室に嫌がらせを続け、「桜を見る会」問題では徹底的に証拠隠滅を図った。/要するに悪党が総理大臣をやっていたのだ〉。

 あらためて列挙されると、すごいよね。

 適菜の批判はさらに安倍の「仲間たち」に及ぶ。

〈この究極の売国奴国賊を支えてきたのが産経新聞をはじめとする安倍礼賛メディアであり、カルトや政商、「保守」を自称する言論人だった。「桜を見る会」には、統一教会の関係者、悪徳マルチ商法の「ジャパンライフ」会長、反社会的勢力のメンバー、半グレ組織のトップらが呼ばれていたが、そこには安倍とその周辺による国家の私物化が象徴的に表れていた〉。

 安部政権の「罪」は3つに分類できるだろう。

 1無体な法律(特定秘密保護法、安保法、共謀罪を含む改正組織的犯罪処罰法、IR法、水道民営化法、改正種子法ほか)の制定、二度の消費増税沖縄県辺野古の新基地建設、米国からの武器の爆買いなど、平和憲法軽視や生活破壊に通じる数々の政策。

 2数を頼んだ強行採決、メディアへの圧力、電通吉本興業と結託した政治宣伝など、官邸主導の独善的な政権運営

 3森友問題、加計問題、「桜を見る会」問題に代表される政治の私物化と、それに伴う公文書の隠蔽や改ざん。

 1については賛否が分かれるとしても、2は民主主義の原則にもとる専制だし、3に至っては犯罪ないし犯罪すれすれの大スキャンダルである。それでも安倍政権は野党やメディアの追及をかわし、まんまと難局を乗り切った。ひとえにこれは、官邸の要たる官房長官菅義偉の手腕によるところが大きい。

 「アベ政治を許さない」というスローガンに象徴されるように、左派リベラルは首相個人を最大の敵と見定めてきた。でも、もしかしたらそれは買いかぶり、幻想だったのかもしれない。

〈大事なことは、安倍には悪意すらないことだ。安部には記憶力もモラルもない。善悪の区別がつかない人間に悪意は発生しない。歴史を知らないから戦前に回帰しようもない。恥を知らない。言っていることは支離滅裂だが、整合性がないことは気にならない。中心は空っぽ。そこが安倍の最大の強さだろう)と適菜はいう。

 もしもこの通りなら、安倍は祖父の遺産を継いだ、無能な三代目の若社長である。自分の手で憲法を変えたい、日本を「美しい国」にしたい。そんなファンタジーはあるけど、実現の仕方は分からない。それで失敗したのが第1次安倍政権だった。

 そんな失意の安倍に再起を促したのが菅だったというのは有名な話。菅という人事権をにぎったコワモテの番頭が、裏で議員や官僚に睨みをきかせ、メディアを牛耳り、三代目のスキャンダルをもみ消し、毎日の記者会見で追及の矢面に立つ。いわば裏の「汚れ仕事」を一手に引き受ける番頭がいたからこそ、三代目若社長は、国政は側近や官僚に任せて、外遊だ、オリンピックだ、有名人との会食だと、浮かれていられた……。もしそうだとしたら、道半ばで倒れた三代目に代わって、権力の座につく番頭がどんな政治をやるかは想像がつく。

 

 最後に斎藤は書く。「下手すると、菅は安倍よりたちが悪い。番頭は所詮番頭、イメージを取り繕う必要がないからだ。先代のレガシーを継承しつつ、番頭時代そのままのコワモテの政治を、今度は表でやる。安部時代の方がマシだったという話にもなりかねない」と。

 

国賊論

国賊論

  • 作者:収, 適菜
  • 発売日: 2020/04/21
  • メディア: 単行本