スカイ・ザ・バスハウスのアルフレッド・ジャー展を見る

 東京上野桜木のスカイ・ザ・バスハウスでアルフレッド・ジャー展が開かれている(11月2日まで)。ジャーは1956年チリ生まれ。

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《You Do Not Take a Photograph, You Make It. (写真は撮るものではなく、創造するものだ)》-アンセル・アダムズ

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《Be Afraid of the Enormity of the Possible(可能性がもつ非道さを恐れよ)》-エミール・シオラン

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写真フィルムを確認するための照明装置であるアルミニウム製のライトテーブル――。1台は床に置かれ、もう1台はそれを正確にミラーリングするように天井から逆さまに吊り下げられています。モーターの動きに合わせてライトテーブルが引き下げられると、まばゆい閃光が2台のテーブルの隙間に圧縮され、やがてテーブル面が完全に密着し周囲は闇に包まれます。写真や動画の過剰な氾濫にさらされた現代社会の盲目性を表す比喩的なジェスチャーと言えるでしょう。

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ルフレッド・ジャー展「LAMENT OF THE IMAGES」
2019年10月4日(金)-11月2日(土)
12:00 - 18:00 ※日・月・祝日休廊
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スカイ・ザ・バスハウス
東京都台東区谷中 6-1-23 柏湯跡
電話03-3821-1144
https://www.scaithebathhouse.com/ja/

 

アートラボ・トーキョーの柳井嗣雄展「遺物」シリーズ―Fiber Drawing-を見る

 東京浅草橋のアートラボ・トーキョーで柳井嗣雄展「遺物」シリーズ―Fiber Drawing-が開かれている(11月2日まで)。柳井は1953年山口県萩市生まれ、1977年に創形美術学校版画科を卒業している。1980年にギャラリー21で初個展、以来個展を多数回開いている。数々のグループ展にも出品し、海外でも何度も発表している。私も2001年のギャラリーゴトウや2009年のギャラリーヴィヴァン、2015年のいりや画廊の個展を見てきた。(今年の宇フォーラムでの個展は見逃した)。
 制作について、画廊のホームページに柳井が書いている。

《遺物》(世紀末版)は、20世紀の終わり(1997年から1999年の間)に制作した20体の頭像のシリーズです。20世紀中に亡くなった、私にとって重要な人物(ジョン・レノンマザーテレサアンディ・ウォーホール三島由紀夫など)で構成された一組の作品として世紀末(2000年)に発表しました。太古の地層から発掘されたように、穴だらけで色あせたその巨大な頭たちは、金網の上に紙の繊維を漉き絡めて成型し、その後、一ヶ月天日干しされ自然の力で完成した作品でした。
今回展示する《遺物》(平成版)は、昨年から平成という時代が終わる今年(2019年)にかけて制作したその平面バージョン20点です。黒く染めた紙原料を流しながら紙漉き工程の中で描いていく。個人的な手わざを出来るだけ消し去るために、落水という技法で上から水滴を落とし小さなドットのような穴を開ける。最後にバックとなる白い楮の和紙原料を全体に流し込む。板張りして2日間天日乾燥する。このような作画工程は私の35年間の紙漉き経験の中から生まれた技法で、“ Fiber Drawing ” と名付けてみました。
図像は版画のように反転して現れますが、始めからそれを計算に入れながらリアルに描いていかなければいけない極めてアナロク的な作業です。穴を無数に開けて主観的イメージを物理的にあいまいにし、薄れいく記憶をかろうじて留めるやり方は立体の「遺物」シリーズの場合と同じ。拡大して見ると紙も図像そのものも植物繊維の集合(和紙)で出来ているのが見て取れるはずです。

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唱和天皇マリリン・モンロー、ボイス

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小林秀雄ケネディ黒澤明

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ジョン・レノンヒトラー

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(不明)、三島由紀夫田中角栄

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ウォーホル、ガンジー

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ジャコメッティピカソ

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チャップリンチャーチル、マリア・テレサ

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ガンジー武満徹

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アインシュタイン
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柳井嗣雄展「遺物」シリーズ―Fiber Drawing-
2019年10月21日(月)-11月2日(土)
15:00-20:00(最終日18:00まで)
28日(月)休廊
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アートラボ・トーキョー/アキバ
電話03-5839-2985 
東京都台東区浅草橋4-5-2 第2片桐ビル1F
https://artlab-tokyo.com/
総武線秋葉原駅 昭和通り口からガードに沿って徒歩7分
総武線浅草橋駅 西口よりガードに沿って徒歩3分

 

櫻木画廊の中津川浩章展「神話の森」を見る

 東京上野桜木の櫻木画廊で中津川浩章展「神話の森」が開かれている(11月10日まで)。中津川は1958年静岡県生まれ。和光大学で学び、個展をギャラリイK、パーソナルギャラリー地中海などで数回ずつ開き、その他、ギャラリーJin、ギャラリー日鉱、マキイマサルファインアーツ、Stepsギャラリー等々で開いている。
 中津川の作品は抽象的にも見えながら、具象的な形が透けて見える。人が描かれていたり、木の葉やキウイみたいな鳥の形も見える。

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 中津川も還暦を迎えている。現在最も優れた画家の一人と言えるだろう。大きな美術館で回顧展を企画してもらえないだろうか。
 櫻木画廊はJR山手線など日暮里駅から徒歩10分と、慣れないと行きづらい印象があるが、日暮里駅南口から谷中の墓地のなかを通って行くのが悪くない散歩コースでもあるし、櫻木画廊のすぐ近くには現代美術の企画画廊スカイ・ザ・バスハウスもあって現在アルフレッド・ジャー展が開かれている(11月2日まで)。この機会にぜひ櫻木画廊へ足を運んで中津川の作品を実見してほしい。
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中津川浩章展「神話の森」
2019年10月29日(火)―11月10日(日)
11:00−18:30(最終日17:30まで)会期中無休
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櫻木画廊
東京都台東区上野桜木2-15-1
電話03-3823-3018
https://www.facebook.com/SakuragiFineArts/
JR日暮里駅南口から谷中の墓地を通って徒歩10分
東京メトロ千代田線千駄木駅1出口から徒歩13分
東京メトロ千代田線根津駅1出口から徒歩13分
SCAI THE BATHHOUSEの前の交番横の路地を入って50mほどの左側

 

植松黎『カラー図説 毒草の誘惑』を読む

 植松黎『カラー図説 毒草の誘惑』(講談社+α文庫)を読む。40種類の毒草が取り上げられている。毒草=有毒植物の図鑑であるが、エッセイとして面白く優れている。この人なら何を書いても面白いだろうと思わせるほどだ。
 ケシについては20ページを費やして、アヘンの歴史からアヘンの精製方法、吸引の仕方まで書いている。キョウチクトウは青酸カリより猛毒って本当だろうか。コブシは樹皮に矢毒と同じ成分を持っているという。スイセンは切り花の汁でアレルギーを起こし、ひどい皮膚炎になった人もいるらしい。私の飼い猫もスイセンを活けてあった水を飲んで吐いたことがあった。
 キノコのドクササコの中毒について、鉄板の上のフランクフルトソーセージのように手足が赤茶けてぱんぱんに腫れあがり、日がたつにつれ痛みはますます激しくなり、焔があがっている焼きゴテを押付けられたような痛みが執拗に続き、気も狂わんばかりに悶絶するという。植松はそのドクササコを試食してみる。ドクササコの毒は水溶性だと聞いていたので、水に浸すと水の色が変わった。水を捨て、キノコを搾ってオムレツを作って1本食べたが何でもなかった、と。
 マオウ科のマオウを研究してエフェドリンを発見したのは日本人化学者だった。エフェドリンを還元したものがメタンフェタミンで興奮作用がある。戦争中に特攻隊員などの士気を高めるために使用された。頭がすっきりして思考力や判断力が増し、眠気がなくなり疲労感も吹っ飛ぶ。戦争が終わると余った薬がヒロポンという名で市場に出回った。わが師山本弘も戦後ヒロポン中毒に苦しんだという。
 植松は幻の毒草G.エレガンスを求めてタイの奥地まで行っている。ようやく探し当てて持ち帰ったら、同じものが正倉院に献納されていたという。
 植松はエッセイストとしても優れていると思う。毒草以外についても何か書いてみてほしいと思った。

 

 

 

 

野木萌葱 作『三億円事件』をシアター711で見る

 野木萌葱 作『三億円事件』を下北沢のシアター711で見た(10月15日)。ウォーキング・スタッフ プロデュース、和田典明 演出。
 三億円事件は1968年に府中市で実際に起こった現金3億円強奪事件。事件は7年後時効になった。芝居は時効3カ月前の府中署の特別捜査本部での刑事たちを描いている。時効を間近に控えほとんどの刑事たちが移動して操作本部を去り、いまでは数人しか残されていない。府中署刑事課の4人と警視庁捜査一課から来た4人が対立する。
 次いで時効2か月前、時効1か月前の同じ捜査本部での緊迫した会話が続く。会話というより怒鳴り合いだ。そして時効前夜、
 野木は三億円事件の捜査本部など、閉ざされた場所での緊迫した台詞劇を好む。『東京裁判』は、日本人弁護士たちの葛藤を、『骨と十字架』では北京原人の発見に関わったカトリック神父であり古生物学者のテイヤールに対するヴァチカンの、カトリックの教義と進化論の矛盾をめぐる論争劇だ。いずれも緊迫する科白の応酬が見る者の緊張を緩めさせない。見事な構成だ。野木が劇作家として優れた才能を有していることはだれしも異議を唱えないだろう。
 ただ、論争の面白さが第一のテーマに思えてしまうのは、時事的なことへの批判、深い思想性が読み取りにくいことだ。だが、野木の面白さは群を抜いており、今後も彼女の舞台は見逃さないつもりだ。