山本弘の作品解説(91)「(題不詳)」

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 山本弘「(題不詳)」、油彩、F4号(33.5cm×24.0cm)
 1977年制作。何が描かれているのだろう。首があるし、角状のものも描かれている。すると鬼だろうか? では顔の前の白い三角は何だろう。
 おそらくそのような理屈ではないのではないか。造形的に面白いと思って三画を描いたのかもしれない。それにしては三角の下辺に絵筆の端を使って細い線を引いている。鬼の歯のようにも見えるし、樹木のようでもある。三角の中の黒い丸は鼻の孔だろうか?
 山本は三角を何度も絵の中に描いている。丸や四角も描いている。単純な幾何学的な形が好きだったようだ。

山本弘の作品解説(90)「(題不詳)」

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 山本弘「(題不詳)」、油彩、F6号(41.0cm×31.8cm)
 1977年制作。顔が描かれているように見える。大人の顔ではないか。頭の上にちょっと離れて角にも見えるものが描かれている。画面下方にも描かれているのは象徴的に描かれた体だろうか。顔らしきもののみやや精密に描かれ、それ以外は思いっきり省略している。
 制作年の1977年というのは山本弘47歳、前年から断酒して作品制作に没頭していた。1976年から78年にかけて3年間で4回の個展を開いている。それも公民館の大きな会場を借りて、1回に油彩をそれぞれ50点ほど発表している。おそるべき創作力だ。
 しかし2年間の断酒ののち1978年からは再び酒を飲み始め、1979年の作品は少なく、1980年は1年間入院していて作品はない。1981年に退院して間もなく亡くなる。
 だからこの46歳から48歳にかけての3年間は奇跡的に多作し、それがみな見事な造形作品となっている。山本弘豊穣の歳月なのだ。

来週8月19日から山本弘展が始まる

 来週8月19日から東京渋谷のアートギャラリー道玄坂山本弘展が始まる(8月25日まで)。そのちらしを紹介する。

f:id:mmpolo:20190814134405j:plain表紙

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裏表紙

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中面

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中面の図版部分

 中面の文章は、こちらに書いている。
https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/2019/07/07/222758
 裏表紙の図版「箱」は6月に亡くなったワシオ・トシヒコさんが、以前『Bien 美庵』に紹介してくれたことがあったので、ワシオさんを偲んで展示することにした。
https://mmpolo.hatenadiary.com/entry/20061113/1163368343

 山本弘展の会期は8月19日(月)-8月25日(日)
 11:00-18:00だが、土曜日は19:00まで、日曜は17:00までとなっている。
 アートギャラリー道玄坂は、
 東京都渋谷区道玄坂1-15-3 プリメーラ道玄坂102号室
 電話03-5728-2101
http://www.artshibuya.com

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 渋谷マークシティの中をエスカレータを利用して4階まで進み、井の頭線の改札を過ぎて、銀行ATMの前を左折して外へ出る。そこから右手を見ると10メートルほどの先に看板が出ている。看板の前を左折すると、すぐ右手にギャラリーが見える。

 

加藤典洋『完本 太宰と井伏』を読む

 加藤典洋『完本 太宰と井伏』(講談社文芸文庫)を読む。5月に加藤が肺炎で亡くなった。以前『敗戦後論』を読んで感心したが、それ以外加藤を読んでこなかった。いや、『敗者の想像力』は素晴らしかった。加藤の死をきっかけに何か読んでみようと本書を手に取った。
 本書は太宰治はなぜ自殺したのかと問うている。そのきっかけは猪瀬直樹の『ピカレスク』だという。私は『ピカレスク』には感心した。太宰が小説のテーマのために自殺や心中を繰り返し、しかし最後に冷静な心中相手から太宰が青酸カリを飲まされて死ぬことになったと結論していた。太宰は作品のために狂言で心中相手を殺していたのだと。
 加藤は太宰を分析する。太宰が遺書で井伏鱒二を悪人だと書いていることの謎にも迫る。きわめてすぐれた分析だ。太宰は狂言自殺などではなかった。
 太宰のところへ通っていた青年三田循司君のアッツ島からのハガキが届く。「大いなる文学のために、/死んで下さい。/自分も死にます。/この戦争のために。」と。そしてその後三田君がアッツ島で玉砕したことを知らされる。
 太宰の最後の小説『人間失格』は、三島由紀夫に影響を与えて、三島が『仮面の告白』を書いたと加藤は言う。
 加藤は71歳で亡くなった。それは寿命としては十分と言えるだろう。『図書』には簡単な自伝を連載していた。それも含めてもっと長生きして書きき続けてほしかった。

 

 

完本 太宰と井伏 ふたつの戦後 (講談社文芸文庫)
 

 

ギャラリーTOWEDの「腕の向き、膝の位置」を見る

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 東京墨田区のギャラリーTOWEDで「腕の向き、膝の位置」が開かれている(8月25日まで)。ギャラリーのホームページから、

石やパテを扱い、特徴的なマチエールを積み重ねながら宗教的な イメージや古代の印象を放つ「人型」の塑像を作り出す、大野陽生。
塗り重ねられる色彩や繰り返し描かれる形態。それらを構成することで 繊細な支持体の上に新たな風景を構築する、ナガバサヨ。
絵画の基本的な所作をその都度違ったプロセスで行い、矩形の構造や 表面の単一性を繰り返し確かめつつも、一回限りで生じる要素の関係や 空間性を探求しようとしている、小山維子。
3名の作家が生み出す作品たちは、それぞれ異なった「物質感」を持って いるように感じられます。この展覧会では、それらが同じ空間内において 互いにどう作用し合うのか、多様なメディアを通してお楽しみ頂けます。

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 大野陽生は、1992年埼玉県出身、ギャラリーb.トウキョウの個展を見たことがあった。

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 小山維子は、1993年宮城県生まれ、2015年多摩美術大学美術学部絵画学科油画専攻卒業。

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 ナガバサヨは、1982 福島県生まれ、東北芸術工科大学芸術学部美術科を卒業。
 
 TOWEDは昨年この地に設立されてちょうど1年が経った。前回1周年記念展が開かれたばかりだ。3人ほどの若い作家たちが共同経営している。先の戦争の東京大空襲の被害を受けなかった墨田区京島2丁目の古い民家を改装してギャラリーにしている。京島は古い町並みが残っているので、路地を被写体にしている写真家などが撮影に来たりしているという。
 一番近い駅は東武亀戸線の小村井駅で徒歩8分。東武スカイツリーライン曳舟駅東口から徒歩13分。京成電鉄押上線京成曳舟駅から徒歩10分となっている。
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「腕の向き、膝の位置」
2019年8月9日(金)-8月25日(日)
13:00-20:00(金・ド・日・祝日 開廊)
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ギャラリーTOWED(トウド)
東京都墨田区京島2-24-8
https://gallery-towed.com/
※原公園横の信号のある交差点から数メートル

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